Work:作品紹介

カラニス皿2010.10.05

カラニス皿(復元)

カラニス皿

時代:3世紀後半~6世紀初め(諸説ありそれらを合わせた年代)
地域:エジプト
モデル:中近東文化センター所蔵品

エピソード:

2001年、東京・中近東文化センターにおいて「エジプトのガラス」展が開催され
ることになった時、依頼を受けて復元を試みたガラス皿。「カラニス」とはエジプト
の首都カイロから南西に100kmのところにある遺跡の名前で、ここから大量の
ガラスが出土している。 

解説:

この皿の大きな特徴は、真上から見た形が楕円形、厳密には横に長い卵形で、
口縁部が外側に折り返されて2重の厚みになっており、台がある。台の周辺部
には道具でつままれたような痕跡が巡る。

カラニス出土のガラスはハーデンによって詳細に分類されており、1936年という
古い研究にもかかわらず、今もこの分類が使われている。それによるとこの皿は
「Ⅰ類A」に分類される。ちなみに円形の皿は「Ⅰ類B」で、すなわちハーデンは出
土した皿を円形と楕円形に分けているのである。

外側に折り返された部分の幅は全部同じ幅ではなく、長径方向の部分に当たると
ころが太く、短径方向に当たるところが細くなっているのが気になる点であった。普
通、口縁部を折り返した場合、折り返し幅は同じだからである。

技法の研究:

皿を作るにはまずお碗のような形にまで成形しておいて、あとは全体を加熱後、竿
を竹トンボを飛ばすような感じでくるくると両手で回すと、ガラス全体に遠心力が働い
て碗の壁が外に開いて皿になる。

では、楕円形の皿はどうか。

お椀の両側面を押すか、マーバーで平にしたものを同じように遠心力をかけると楕円形
の皿になる。

実物は実際にはきれいな楕円形ではなく、ややいびつな卵形といえるものであったが、
およそこの形も楕円形をつくる技法と同じだったと考えた。この形よりもむしろなぜ折り返
し幅が同じにならなかったのかが疑問であった。始めは、長径方向にガラスが伸びるため、
皿の上下(短径方向部分)の折り返しが横に伸ばされて細くなったのだと推測したが、
何度つくっても幅は同じだったからである。

折り返し部分同じ幅
折り返し部分の幅は同じ

そこで、最初から意図的に折り返し幅が違うようになるための細工をして製作することに。

01.口に谷間をつくる02.外折り03.折り返し部分の幅が一定でなくなる
口に谷間をつくる          口縁部を外に折り返す   折り返し幅は一定にならない

04.全体を加熱05.遠心力をかける
全体を加熱              遠心力をかける

この方法で作った皿は明らかに長径方向の折り返し部分で幅が太くなった。
意図的に折り返し部分に幅を作ったため、谷間をつけた部分は折り返しが甘く、逆に山と
なった部分は大きく折り返されることになる。この状態で遠心力をかけると、大きく折り返
された部分は遠心力が強くかかり大きく伸びるということが分かった。

まとめると、最初にガラスが伸びたから折り幅が変わったと考えたが、そうではなく、折り幅
に太い部分と細い部分があったから、遠心力のかかり具合が太い部分により大きくかかって
伸びた、ということである。実際、碗形を平らに変形させず、この遠心力の不平等なかかり具
合だけで製作したところ、それだけで楕円形、厳密には卵形になった。

復元品
復元品

この実験では意図的に折り幅を変えたが、古代では吹き竿を切り離す時にこうなった可能性
がある。現在は吹き竿がまっすぐ切り離せるように、あらかじめその部分にくびれを入れておく
(首をくくるという)のが常識である。しかし、この方法を知らず、強引に水などで切り離した時、
切り口は欠け、がたがたな状態になってしまう。この状態で折り返すと自ずとその幅は一定で
はなくなり、結果的にこの実験と同じ状態になってしまうと思われる。

となると、古代の職人は楕円形の皿を作ろうとして作ったのではないということになる。
長きに渡って使われている「楕円形皿」と「円形皿」という分類がはたして意味あるも
のといえるのかどうか・・・・

この研究は一部です。

参考文献:

  • 島田 守 2003 「エジプトにおけるローマン・グラスの再検討 -カラニス皿の復元制作から 」『GLASS』46 日本ガラス工芸学会
  • 真道洋子 1987 「カラニス出土ガラス器」『岡山市立オリエント美術館研究紀要』6 pp.75-99 岡山市立オリエント美術館
  • Harden, D.B. 1936 Roman Glass from Karanis found by the University of Michigan Archaeological Expedition in Egypt 1924-29, Ann Arbor
2010.10.05 15:19 | 作品, 復元

コメントを残す