『アルカイダから古文書を守った図書館員』2020.11.21
『アルカイダから古文書を守った図書館員』
- ジョシュア・ハマー 梶山あゆみ 訳
- 2017
- 紀伊国屋書店
- 349ページ
- 重責を負わされた少年
- 失われた黄金の歴史
- 新石器時代のストーンビーズ
- 古文書を探す苦難の旅/li>
- 私設図書館第一号の誕生
- トンブクトゥの新たな春
- 忍び寄るイスラム原理主義ド
- 警戒を強めるアメリカ
- 吹き荒れるテロの嵐
- 危険な同盟
- トンブクトゥに迫る戦火
- 征服と抑圧
- 古文書救出作戦の開始
- 破壊と残虐
- トンブクトゥ脱出
- 南下する恐怖
- フランスの軍事介入
- ニジェール川の輸送作戦
- 勝利と解放
- 戦いの終焉
vitrum lab.評
日本をはじめ、多くの国では40万冊の本を1000キロ先の町へ運ぶとなった時、
本の多さや運搬距離に対して驚くものだと思いますが、本書の舞台はアルカイダ占領下のアフリカの国マリ。
この行動がいかに危険で命がけだったのかが伝わる緊迫した古文書救出劇ですが、これは映画ではなく現実の世界の話です。
極端な思想と武器を持つ支配者の元では、彼らに反する思想や行動は制限され、逆らうと鞭打ち、最悪の場合は
死刑となります。マリはイスラム教の国で、興味深いことに、ここには古来より個人個人の家に代々大切に受け継がれてきた
たくさんの古文書がありました。1冊1冊丁寧に作られた本もあれば、紙の切れ端に書かれた文書もあり、
内容もイスラムの教えや天文学、数学にいたるまで様々。時に、これらの古文書から知恵を借りることもあるくらい
現役の本もあるといいます。
主人公のハイダラは父から受け継いで、個人宅や小さな建物に伝えられた古文書を集め、
後世に伝えるために保存処理を施し、図書館に保管するという仕事をしていました。
古文書を売って商売をしているという根拠のない噂が立てられたりして、始めは信用されず
古文書を預けてくれる人が少なかったようですが、苦労の末、信用を得て最終的に集めた古文書は
40万冊近くに及びました。前半はハイダラの生い立ちと苦労話、時々、後に暗躍するテロリストのリーダー
3人の生い立ちが描かれますが、まだ、比較的しずかに話は進みます。
後半、別々だった3人のテロリストが過激な思想の元にいよいよ合流し動き出したあたりから
一気にマリは混乱に陥ります。それでも当初、ハイダラは楽観的でした。すぐにテロはおさまるだろうと。
アルカイダはマリを北東から南西へ破竹の勢いで制圧していきます。
いよいよトンブクトゥが支配され、昨日までの世界ががらりと変わり、
人々の生活は監視され、制約の多いくらしを強いられ、同じイスラム教とは思えない思想を
強要されることになります。まるで世紀末を描いた漫画のようでした。
古文書にはアルカイダが掲げる思想とは違う、自由でおおらかな教えを示すイスラム教が書かれていました。
ハイダラは現在世界中のほとんどの人が持っているイスラム教のイメージ(もちろんマイナスイメージ)を
覆す証拠として、これらの古文書の重要性を知っており、歴史的価値はもとより、その点を重要視していたため
古文書集めに力を注いでいたので、これらを守り、後世に伝えることに非常に多大なる責任を負っていました。
彼はトンブクトゥからさらに南西の首都バマコへすべての古文書を移動させることを決心します。
行動が制限される中、本を積み込むことすら命がけの状況。本を収納する箱を買い集めることすら
怪しまれないように行動し、たとえ収納できたとしても、この大量の本を1000キロ先の街にとどけるには
どうすればいいのかを計画し、いよいよ行動に移します。テロリストもすでに進軍を開始しています。
そこにきてようやくフランスの軍事介入がありますが、彼らに没収される危険性もある。
このような極めて困難な状況下で彼はどう古文書を移動させたのか。映画のような臨場感で持って
描かれており、ハイダラの強い意志に感銘を受けます。
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2020.11.21 09:45 |
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