フェニシアン・ネックレス(復元)
時代:前5世紀-前4世紀
地域:スペイン
モデル:マドリッド国立考古学博物館所蔵品
バーナーワークを独学で始めて、一番初めに復元しようと試みたのがこの同心円文
のガラス玉。単純に「簡単そうだ」と思ったから。色んな資料を参考にして色々と練習
するも、いつものごとく現代的な技法しか載っておらず(悲)、やっぱり自分で研究する
しかないということになり、実験に実験を重ねて「こうではないか?」というところまで
きたもの。最終的にするべき実験のみを残した状態。ただ、残念ながら現代的な方法
で作ったものと、復元研究で作ったものの結果は気付きにくい・・・・でも明らかに現代
的な技法では残すことのできない痕跡がのこされている。
古代ローマ帝国が中心となって世界が動くよりも前の時代、地中海で活躍していたの
はフェニキア人だった。航海術と商人としての能力を発揮して、貿易で大きな利益得て
いた彼らが取り扱っていた商品の一つがガラスである。当時はまだ吹きガラスは発明
されておらず、ロッド成形(心棒にガラスを巻きつけながら成形し、最後に芯を掻きとって
作る技法)による小ぶりの容器やガラス玉がメインだった。
この復元品のように橙、青、黒などの本体に白と黒の同心円文を施したガラスや、男性
や女性の顔を模したユニークなガラスが特徴。こうしたガラスは地中海沿岸だけでなく、
内陸部でも見つかっている。フェニキア人の活動範囲の広さを物語っている。
吹きガラスは発明されてから2000年も経つが、少ない証拠から見る限り、根本的な部
分では、現代の姿とかけ離れて違う技術のようには見えない。
しかし、バーナーワークとなると吹きガラス以上に証拠はなく、古代のその技術を推測
することすら難しい。現代ではガスバーナーを使う。ポンプによって送られた空気とガス
を混合して勢いよくバーナーの先から噴出する炎にガラス棒の先端を当てて熔かし、そ
れをロッドに巻きつけていくという技法がバーナーワークであるが、今でこそ吹きガラス
で使う設備とバーナーワークの設備は全く異なるが、古代においても始めからこれらが
まったく別のものとして発明されたとは考えられなかった。ガラス玉の研究はこのような
考え方を基に進めた。簡単にいうと、ガラス玉も吹きガラスも同じような設備で始めは作
られていたのだということである。そう考えた時の現代と古代のバーナーワークの大きな
違いは、現代ではガラスを部分的に加熱できるが古代ではそれができないということで
ある。
フェニキア人の作った同心円文ガラス玉や人頭玉には小さなくぼみが残ったままになって
いるところがある。また人頭玉では巻き毛を穴のあいたパーツで表現している。
例えばルーブル美術館所蔵のガラスやコーニングガラス美術館所蔵のガラス。
両者の人頭玉の髪は実際にくるっと巻いたガラスで巻き毛が表現されているが、これらは
ガラスの先端をあぶって熔かしながら作るやり方ではできない。
以上をまとめると
そこで考えたのが同心円文や人頭玉を構成する各パーツをあらかじめ作っておき、それら
を本体に熔着していくという方法である。この方法だと部分的に加熱できない設備でも可
能である。
そこで以下のような実験を行った。設備はガスバーナーを使ったが、1つは部分的に加熱、
もう1つは全体を加熱するという使い方をした。
太さの違うガラス棒をスラ これを次々と本体に乗 断面
イスしたものを用意 せていく
どちらの方法も結果的には同じようになることが分かった。
これらをエジプト出土とされるガラス玉の断面と比較しても同じような痕跡を残していること
が分かる。
Robert K. Liu, 1995, Collectible Beads, p.114より
よって部分的な加熱ができない設備でも同心円文ガラスは製作が可能である。この技法を
によってフェニシアン・ネックレスを製作し、さらに分かったことは、この方法ではガラス棒を熔
かしながら作る方法よりも本体への熔着力が弱いということであった。人頭玉などパーツの多
いものでは特に注意が必要である。そこでパーツを本体に乗せた後、軽く本体に向けて押し込
むようにすると、実物にあるような窪みが残ることもあることが分かった。
この研究は現在も進行中です。