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『騎馬文化と古代のイノベーション』2016.12.17

『騎馬文化と古代のイノベーション』

 

  • 古代史シンポジウム「発見・検証 日本の古代」編集委員会
  • 2016
  • KADOKAWA
  • 360ページ
  1. またたく間に広がった騎馬の文化 突然、巨大化した墓/上野 誠
  2. 危機の中の古代国家 「騎馬民族による征服説」について/上野 誠
  3. 特別収録 騎馬民族による征服説/江上波夫
  4. 古代国家の内と外 序論/白石太一郎
  5. 基調講演 稲荷山鉄剣銘の衝撃/森 公章
  6. コラム 国造制、部民制、人制とは何か/天皇の漢風諡号、和名の成立
  7. 基調講演 日本列島の騎馬文化はどのようにして始まったのか/白石太一郎
  8. コラム 沖ノ島祭祀の始まり
  9. 基調報告 古代東アジアと日本列島の馬具/李 尚律
  10. 討論
  11. コラム 近世における馬疋生産
  12. 基調報告 古代韓日交渉史の新たな展望と課題/朴 天秀
  13. 討論
  14. コラム 考古学からみた稲荷山鉄剣/葛城氏とは何者か
  15. 基調報告 日本列島の初期の馬具/桃崎祐輔
  16. 討論
  17. コラム 日本の氏・姓とは何か-その違いについて
  18. 基調報告 渡来人の実態と多面的な役割/田中史生
  19. 討論
  20. コラム 「帰化人」と「渡来人」
  21. 論考 渡来の文化と四・五世紀の国際関係/東 潮
  22. コラム 倭の五王の王権力と前方後円墳
  23. 論考 騎馬文化の地域性/諌早直人
  24. コラム 考古学からみた江田船山鉄刀
  25. 論考 騎馬文化受容前後の倭と百済・伽耶との関係/井上主税
  26. コラム 馬と船の渡来文化
  27. 全体討論 騎馬文化と前方後円墳の広がり
  28. コラム 歌の伝える情報、司会者席で考えていたこと

vitrum lab.評

目次を見て分かるようにシンポジウムの内容をまとめたもの。一見、ガラスとは無関係なテーマの本ですが、意外なことに東アジアのガラスについて
結構な知識が得られました。 それも古代の日本で多く見られるガラス玉ではなく吹きガラスについて。これらはシルクロードを通じて流入されてきた
ものですが、4~5世紀の朝鮮半島の動きの影響が当時の、王権樹立黎明期の倭にも影響が及んだ結果です。

本書の本当のテーマは「騎馬文化」。朝鮮半島や中国に影響を与えた遊牧民の馬を扱う技術と馬具から見て、古代の日本がいかに渡来人の
影響を受けたのかを日本と韓国の研究者が議論しています。日本の古墳から多くの馬具が出土していますが、もともと農耕民だった日本人が
遊牧民の技術や文化をどのようにして取り入れることになったのか。最新の日本のみならず韓国の考古学的発見から議論された、とても興味深い
内容になっています。

この議論は一昔前、江上波夫が提唱した「騎馬民族征服説」で熱を帯びます。大陸の騎馬民族が日本を征服したという衝撃的な説です。
突拍子もない説のように見えますが、出土品が今ほど多くなかった時代、農耕文化の日本が突如騎馬文化になるにはこれくらいの強力な
力が働いたとしか考えられない、と考えられました。もちろん当時もそして現在も多くの反論がなされ、否定されていますが、しかし、この説がいまだに
魅力なのは、日本の国家形成に向けての流れを、日本だけでなく大陸の影響も視野に入れて考えたことだという点で評価されています。本書には
江上氏の騎馬民族征服説も収録されています。

倭と朝鮮半島との関係で無視できないのが百済。当時、百済は高句麗と対立し、伽耶諸国や倭と同盟を結びました。新羅は高句麗に従属する形を
採りました。この朝鮮半島の対立構造に倭も巻きこまれたという感じです。結果的にこのことが大陸の最新技術や文物、そして渡来人そのものも倭に
もたらすことになり、それが倭王、そして首長に分配された、というのが4世紀後半の古代日本の支配構造。興味深いのは、倭王は各地の首長が直接、朝鮮半島の国と交渉を行うことを認めていたということ。

しかし、5世紀には朝鮮半島の情勢が変わり、南部伽耶は衰え、新羅が影響力を増す。衰えていない北部伽耶に接近したい倭王と、新羅と直接交渉を
行っていた首長との間で対立が生じ、地域の国際交流が混乱した結果、最終的に王権のみが渡来系技術を掌握するようになった、というのが最新の
プロセスだそうです。

さて、百済とも新羅とも交流のあった日本。特に新羅には多くのローマ・ガラスがシルクロードからもたらされていました。これが渡来人とともに、あるいは
モノだけか、詳細は分かりませんが、日本に持ち込まれたということになります。韓国人研究者によると新羅系の王族の墓からは必ずローマ・ガラスが
出土するということから、奈良県の新沢千塚126号墳は新羅系の人物が葬られたのではないかと推測しています。ちなみに発掘者の森浩一氏は百済系
渡来人だとしています。仁徳天皇陵からも、新沢千塚出土ガラスと似たようなガラスの碗と皿が見つかっており、新羅経由で入っていたとされています。

以上のように、本書のテーマはあくまで馬具を中心とした騎馬文化と古代日本の関係を探るものですが、古墳から出土しているガラスを考える上で、
東アジアとの関係を無視できないため、ここで展開されている議論は非常に興味深く、おススメできる本です。ちなみに新羅のガラスについては
由水常雄氏の『ローマ文化王国・新羅』が詳しく、本書と合わせて読むとより理解が深まります。

vitrum labook

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2016.12.17 06:31 | ガラス, , 考古学

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