『栄光のペルシア』
ペルシアは今のイランを指します。この地は西のメソポタミアほど恵まれた地ではないが、それでも約1万年前の遺跡から家畜化された山羊の骨が見つかっており、古くから農耕牧畜の生活が営まれていたとされています。その後は幾度か帝国が築かれます。アケメネス朝ペルシア、パルティア、ササン朝ペルシア、そしてイスラーム教の王朝がいくつか興隆し今に至る・・・・いくつか聞いたことのある王朝があるかと思います。このような時代の流れを、イスラーム文化が流入した時から前後にわけて本書は構成されています。分かりやすい構成です。
イスラーム文化以前は、周辺地域の影響を受けながらも独自の文化を形成します。例えば、アケメネス朝はオリエントの諸文化を統合しましたし、パルティアはギリシア文化の影響を受けましたし、ササン朝は火を仰ぐゾロアスター教という独自の宗教を信仰しました。イスラーム文化流入後は、イスラーム教という一貫した概念のもとに文化が栄えますが、先代のペルシア文化も取り込み、また、イスラーム王朝の支配領域はかなり広大わたったため国際色豊かな文化に発展しました。おおざっぱに観れば、何本もの個々の特徴的な文化の紐が、やがてイスラーム文化という大きなひとつの紐に撚られていくように映り、それは今よく言われている「グローバル化」のはしりのように感じます。大いに栄えることはいいかもしれませんが、個々の特徴が失われていく、どこかさみしい感覚もあります。
ともかく、そういった文化が生み出した土器、金属、ガラスなどを代表的な資料の写真と簡易な解説によって紹介しており、非常に分かりやすい本となっています。ペルシアの展示カタログをさらに端的にまとめたという感じです。ともすればごちゃごちゃと資料を並べ、解説をいれてしまいがちなカタログもここまですっきりすれば非常にすっと頭に入ってきます。逆に専門的なものを求められると物足りないかもしれませんが、この本はみるからに入門書的なものですから!
ガラスは少し登場します。本書の扱う地域でのガラスで有名なものと言えばやっぱり正倉院ガラスにも見られるササン朝ペルシアのカット装飾碗ですね。正倉院ガラスでいう白琉璃碗です。また、イスラームガラスは装飾技法が大いに発達し、なかでもエナメルという低温で熔ける顔料で絵付けをして再度焼きつけるという技法は、ヴェネツィアンガラスへ影響を与えるという、ガラス史における重要な役割を演じます。しかしこのガラスに関しては最後にちょこっと登場するのみです。
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