Books:本の紹介

『ガラス古代史ノート』2011.04.09

『ガラス古代史ノート』

ガラス古代史ノート
本当はカバーがあると思うのですけど・・・

  • 丸山次雄
  • 1973
  • 246ページ
  • 窯業協会
  1. ガラスの起源を求めて
  2. ガラスの言語学
  3. ナイルの谷 -新帝国時代を中心とするエジプト・ガラス史-
  4. メソポタミアの古代ガラス史
  5. 前1000年紀の環地中海の古代ガラス史
  6. 古典中・後期のガラス史(1)
  7. 古典中・後期のガラス史(2)
  8. 古典中・後期のガラス史(3)
  9. 古典中・後期のガラス史(4)
  10. ローマ時代の環地中海ポンペイ、カラニス、ホムス
  11. インドとアフガニスタンのガラス史

vitrum lab.評

著者はどこかの大学教授でもなく、博物館学芸員でもない。昼間は旭硝子株式会社川崎工場の経理課長の激務をこなしながら夜間、休日を研究に注いだ言ってみれば二足のわらじをはいたガラス好きのサラリーマンです。出版年を見ていただければ分かる通り、私が生まれる以前の古い本ですが、「国内にはオリジナルな調査を記載した報告書、あるいは定期刊行物の発行が少なく、また諸外国文献の入手も容易ではない」こと、「国内においては遺跡・遺物を実見する機会が少ない」ことが古代ガラス史を志す者の障壁となっていると本書で述べられているように、そしてこのことは現代ですらそのように感じるのに当時はなおさらであったでしょうが、そんな中、よくもこれだけ海外の文献を探し当てて読みあさり、まとめあげたものだとただ驚くばかりです。ましてや働きながらです。本書からはひしひしと情熱が伝わってきます。当然のことながら、これまでに少なからずガラス研究は進展しており、現在とは知見の異なる部分や、当時では不明だったことが今では明らかになっている部分があり、時代の流れを感じる部分もありますが、それでも当時の状況を考えれば称賛に値する内容です。

多くの文献を読み、そこから得た知識をまんべんなく駆使して分かりやすく体系的にまとめた本書は今となっては貴重な文献からの引用文や写真資料が掲載されていたりして、それが他にはない独自の本にしています。エジプト、メソポタミア、地中海、ローマ帝国領、インド、アフガニスタンという広範囲な地域のガラスをまとめていますが、一貫して出土ガラスの型式学に主力をおいており、各地域を代表する研究者が分類した型式を簡潔にまとめています。こうすることで他地域との比較も容易になり、離れた地域同士の交流を論ずることができるようになります。化学分析の知見も含まれており、当時発展しつつあった古文化財科学の分野にも早くから着目していたことが分かります。本書で取り上げている地域には中央アジア以西のガラスが含まれていませんが、実は著者の頭の中には構成としてあったそうですが、それらを完成させる前に著者は病で倒れられたそうです。病に冒されながら本書を執筆していたとか。

研究者も顔負けの本書ですが、やはり古い本というだけあって、今から古代ガラスを研究するのであれば特に真っ先に読んでおくようなものでもありませんが、古代ガラス研究史から入りたい人は必見だと思います。

働きながら研究するという、しかも私と同じ課長・・・似たようなスタイルの人がここまでできるのだという目標にもなり勇気づけられました。まあ、私の仕事はガラスとは全く関係ないんですけど!

vitrum labook

2011.04.09 00:08 | ガラス, , 考古学

コメントを残す