ガラスはガラスでもここにはビール瓶やサイダー瓶、ラムネ、ワイン、ウィスキーなど懐かしいガラス瓶をはじめ、点眼器、薬品瓶、化粧瓶など近代において製造技術が発達し多様化してきたものばかりが登場します。近現代考古学と呼ばれる分野です。近現代社会が形成されるにつれ、日本の生活様式も大きく変化し、衛生面への配慮やデザイン性の重視といった近現代ならではの考え方が登場しますが、それが近現代遺跡から発掘されるガラス瓶を通してみることができるという主張のもと、普通なら廃棄されるガラス瓶に着目した内容でとても面白かったです。
普段、考古系の文献でよく見る土器などの実測図が、本書では当然瓶ビールだったりサイダー瓶だったりするわけです。運よく現在も企業が存在し、社史やカタログがあればそこから何のための瓶だったのかつきとめることができますが、そうでない場合は器形、色、デザインなどから類推することになります。近現代といえば下手をすれば自分がまだ生きている時代のものもあるかもしれないくらい近い時代のことですが、それですら何に使っていたのか分からない瓶が存在することに驚きます。それだけどんどんとモノがもつ情報が失われているということです。考古学が明らかにできるものはほんの一部なんだと思い知らされてしまいます。
さて、本書の主人公のガラス瓶ですが、今ではペットボトルに取って代わられつつあるといいますが、まだまだなじみ深くもあり、よく目にします。しかし、なぜその用途に使われるようになったのかとか、なぜその形になったのか、そこまで考えて使うことはあまりないでしょう。この本はそのあたりも詳細に研究されています。たとえば、ワイン瓶の底がなぜ内側へ突出しているのかご存知でしょうか?これは沈殿物を底にとどまらせるようにするためといわれています。炭酸飲料瓶がなぜ「なで肩」なのか?それは炭酸による内圧によって破損しないようにするためです。逆に「いかり肩」の瓶は中身を注ぐ時に液体と空気が撹拌されやすいためトクトクという音をだし、また泡立ちがよくなるため瓶ビールや洋酒瓶に使われているそうです。ビール瓶などの底面には縁にギザギザの加工がされていますが、これは滑り止めではなく底面に傷がつきにくくするための工夫なんだそうです。接地面を小さくしているのです。その他、手で持って扱う瓶は持ちやすいように横断面が楕円形をしているとか、機能よりもデザインを重視する傾向にあるのが化粧瓶だとか、本当にガラス瓶に詳しくなれる内容となっています。
そういえばファンタオレンジとかも昔は瓶で売ってましたよね。そして瓶を返しに行ったら10円もらえました。ガラス瓶はまさにペットボトルなどに取って代わられようとしているのです。これも時代の流れか。
ここで紹介した本は以下で取り扱っております。