『実験考古学』を著したジョン・コールズによると、現代の実験考古学を確立する上で重要な役割を果たした人物の一人が、本書の著者ヘイエルダールだといいます。彼は古代におけるポリネシアへの植民は、定説では東南アジア方面から徐々になされたと考えられているが、一部はアメリカ大陸からもなされたと信じ、それを実証しようと考えたのでした。そして文献史料から筏を使っていたと考え、釘も使わない昔ながらの作り方で丸太を組み、筏を作り、数人の仲間を集めて命がけの航海へと旅立ちます。
誰もがこの試みの成功を信じなかったのですが、様々な困難を切り抜けて、海流と風とわずかな人力だけでポリネシアに誰ひとり命を落とすことなく辿りつくことに成功したのです。乗組員は操舵に関してはずぶの素人集団だったにもかかわらずです。彼らは航海中に多くのコツを学び、そして海に浮かぶ筏は高波も浮かんでかわす能力があることを知り、完全に筏を信用することができました。食べ物も無限に広がる海から得ることができ、飢えることがなかったそうです。最大の問題は、どうやって上陸するか・・・でした。なにせ動力が風と波です。どうやったかは読んでみてください。
さて、この命知らずの大偉業は成功したにもかかわらず、彼らが示したのは筏で海を渡ることができた・・・南米からポリネシアへの航海は可能だった・・・ということであって、必ずしも古代に南米からポリネシアへの植民がおこなわれたというような、今の定説を覆すような結果をもたらしたわけではありませんでした。東南アジアから植民されたという圧倒的な証拠があるから、覆すことはできなかったということだそうですが、しかし彼らが示した重要なことは「実験を行い、ある学説に対しては検証を加え、通俗的な考えを盲目的に受け入れてはならない」ということを示したことであるとコールズは評価しています。一方で彼は、片道だけの航海で終わらず、帰路にもつけていたらさらに評価が上がっただろうと述べています。なぜなら植民は片道で終わらないからです。
そんなこんなで、実験考古学のはしりとなったこの試みではありますが、本書自体は研究書ではなく、あくまで「漂流記」です。航海のエピソードを中心に書かれていて、例えば、海に人が落ちたこととか、サメとの格闘とか、嵐にあったとか・・・です。何かしらのデータが示されているわけではありませんが、徐々に色々なことを学び、果敢に渡って行く様子は読んでいて楽しめました。ちなみにヘイエルダールの航海実験はこれだけにとどまらず、この後も何回か色々な場所で行っています。
ここで紹介した本は以下で取り扱っております。