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『国宝消滅』2016.12.19

『国宝消滅』

 

  • デービッド・アトキンソン
  • 2016
  • 東洋経済新報社
  • 352ページ
  1. 経済から見た「文化財」が変わらなくてはいけない必要性
  2. 文化財で「若者の日本文化離れ」を食い止める方法
  3. 文化財行政を大転換するため、まず「意識」を変える
  4. 文化財指定の「幅」が狭い
  5. 文化財の入場料は高いか安いか
  6. 文化財の予算75億円は高いか安いか
  7. 職人文化の崩壊
  8. なぜ日本の「伝統文化」は衰退していくのか
  9. 補助金で支えるのは「職人」か「社長」か

vitrum lab.評

元ゴールドマン・サックス金融調査室長だったイギリス人による著書。現在は文化財修復の会社、小西美術工藝社社長。
金融アナリストだった著者だけに、 文化財=ビジネス財ととらえて、現在日本が抱える財政問題の解決手段の1つとして
日本の文化財を利用した観光立国を目指せという提言。

日本の人口は今後減少傾向にあり、税収減は免れないということはよく聞く話。このままでは既存の社会保障制度が立ち行かなく
なることが確実視されており、今の文化財を保護するという政策から、活用する政策にビジネスモデルを変えないことには、GDP(国民
総生産)成長は望めない、といいます。さらに、日本では急速に文化財離れが進んでいるが、それは生活スタイルの西洋化 による影響が
大きいといいます。その原因も幼いころから文化財に触れる機会が減っているからだと指摘。文化財は保護するものだという文化財行政
の在り方を否定し、箱モノとして扱うのではなく、内装を整え、人間を配し、日本の文化を実感できるような仕組みにしなければ、単なる
建物見学に終わってしまう。それは観光客が日本の文化を理解するには不十分になるどころか、日本の若者が文化財を学ぶことにも
いい影響を与えない、と日本によってもよくないことだと主張されています。

国宝や指定文化財の基準のあいまいさにも言及し、観光客の目を引くような指定されるべき文化財がもっとあるが、指定されていないため
傷みが激しいものがたくさんあるとのこと。その傷みを修復する職人にも仕事が回ってこず、職人文化そのものも衰退しつつあるようです。

文化財をビジネスとして利用することには賛否両論あると思います。教育分野を市場原理で動かすと、教育を受けられる者と受けれられない者の
格差が広がるのと同じように、文化財をビジネス化すると儲けが出せない文化財は衰退するのではないか、 という懸念があります。
競争に負けた文化財をどうするのか、といった案は本書には提示されていません。補助金頼みの文化財保護の在り方に一石を投じたという意味
では考えさせられる内容でした。

vitrum labook

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2016.12.19 05:13 | その他, 保存科学,

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