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『聖書の世界の考古学』2011.04.19

『聖書の世界の考古学』

聖書の世界の考古学

  • A. マザール 著 杉本智俊・牧野久実 訳
  • 2003
  • 414ページ
  • LITHON
  1. 序論
  2. 最初の農耕村落 新石器時代(紀元前8500-4300年)
  3. 紀元前4000年紀の革新的共同体 銅石器時代(紀元前4300-3300年)
  4. 都市の出現 初期青銅器時代(紀元前3300-2300年頃)
  5. 移行期 初期青銅器時代第Ⅳ期・中期青銅器時代第Ⅰ期
    (紀元前2300/2250-2000年)
  6. カナンの都市国家 中期青銅器時代第Ⅱ期(紀元前2000-1550年)
  7. エジプト支配の陰で 後期青銅器時代(紀元前1550-1200年頃)
  8. 士師の時代 鉄器時代第Ⅰ期(紀元前1200-1000年頃)
  9. イスラエル統一王国 鉄器時代第ⅡA期(紀元前1000-925年)
  10. 南北分裂王国 鉄器時代第ⅡB-C期(紀元前925-586年頃)
  11. イスラエルの物質文化の全般的特徴
  12. イスラエルの隣国とアッシリア、バビロニアの支配

[序文]より

・・・聖地の考古学の性格については、ここ数十年かなり議論がされてきた。この研究は独立した分野と見られるべきなのか、それとも近東考古学の一分野と考えられるべきなのか。また、この研究は現在の聖書研究、歴史研究、文学研究にどのようなインパクトを与えられるのか。考古学的発見をこれらの分野に当てはめる時に注意すべき点は何か、などである。本書は、基本的にパレスチナ考古学の入門書として書かれているが、考古学的発見が聖書の歴史に対して持つ意味についても可能な限り記してある。考古学者と聖書関連の研究者の溝は拡がりつつあるが、本書がその溝を少しでも縮めることができればと望んでいる。・・・

vitrum lab.評

聖書の世界とは現在のイスラエル、パレスティナあたりを指します。聖書に書かれていることは架空の話ではなく、いくらか事実が含まれているのではないかという考えを基にこの地域の発掘成果と聖書の内容とを比較研究するという「聖書考古学」なるものがありますが、本書はまさにこの地域と隣接地域に特化した内容となっています。目次の通り、始まりは聖書が登場するよりもはるか前の新石器時代からとなっていますが、それだけ長い時代に渡って人類の営みが存在しているということです。

「序文」にあるようにパレスティナ考古学の入門書として書かれている本ですが、それにしても大著です。私はパレスティナやイスラエルの抱える問題に関心を持って、そこから派生して歴史的にはどうなのか、また、隣接地域のフェニキア関係についてはどう絡んでくるのかということにも関心があったので手にした本ですが、あくまでもこれは私の関心事であって、本書は純粋に考古学的事実からパレスティナや周辺地域の歴史を紐解くという内容です。ということで、知らない遺跡名がたくさんでてきて、位置関係も含めこの地域について基本的かそれ以上の予備知識なしに読むとかなり難解な内容となります。

本を読む前の印象は発掘成果と聖書の内容を詳細に比較していくことに特化した内容だと思っていたのですが、意外とそうではなく、実際の発掘成果を中心にその解釈を述べ、ところどころで聖書の内容と比べるという内容でした。これは聖書考古学がともすれば陥りがちな問題、すなわち、発掘成果を無理やり聖書の出来事とつなげてしまう傾向があったことから、著者は公平な見解を示すために発掘成果に重きを置いたことが分かります。

それにしてもこの地域の歴史の長さには驚きです。一つの遺跡にかなり長期間の歴史が蓄積しているため、たくさんの層位が存在し、これを読むことが難しいという問題があります。例えば神殿は長期間使われ続けても、一般住居はどんどん建てなおされるため、この2つが同じ時代だとしても、同じ深さから出土しないことがしばしばあるといことが起こるのです。そのため、発掘は広く全体的に地層をはいでいくという方法が採られることが多いようです。また、非常に長い時間をかけて発展していく都市もあり、そうなるとどこで時代の区切りをつけたらいいのか分かりにくいということが起こります。いずれも日本考古学ではあまり見られない傾向だと思います。

こうして発掘成果だけを見れば、現代まで続く宗教問題の根がどこにあるのだろうと思ってしまいます。度々、発掘者の意思とは裏腹に、考古学的な成果が「この地域は昔は我々のものだったのだ」という主張の道具にされることが実際にあるのですが、一方で、土着の宗教もキリスト教も、ユダヤ教も、イスラム教もどれも強要することなく共存させて発展させた指導者も少なからずいます。聖書考古学を始め、宗教を扱う考古学というものがそういった平和的な見本として使われるとよいのですが・・・・ 

vitrum labook

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2011.04.19 18:28 | , 考古学

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