『沈没船が教える世界史』
トルコ旅行を計画した時、必ず訪れようと思っていたのがボドゥルム。ここには沈没船と回収された遺物が展示されている博物館があります。ガラス関係で有名な沈没船は11世紀のセルチ・リマナ沈没船。この船から大量のガラスが発見されているのですが、このようにトルコとガラスの関係を考えた時まず浮かぶのは沈没船でした。そこで本書にガラスを積んだ沈没船のことが書かれているのではと思い読んだのがきっかけでした。
著者は実際に水中で発掘を行う水中考古学者です。世界各国の水中遺跡を紹介していますが、どれもこれも一級品の成果を上げています。というのも水中に長年存在し続けた遺物は空気から遮断されているため保存状態が良いことが多く、陸上では朽ち果ててしまうものも、水中ではずっと残っていることがあるため膨大な情報を与えてくれます。また沈没船はどこからどこへ向かう途中に、いつ沈んだのかという記録が残っていることが多く、年代の分かる遺跡としてかなり貴重な存在です。ちなみに前出のセルチ・リマナ沈没船から見つかった大量のガラスのことも書かれていて、それによるとガラス片がなんと100万個も発見されたのだとか。組み合わせて器になるようなものではなかったため、リサイクル・ガラスだったと考えられています。
海賊や大航海時代の船など興味深い話がたくさんでてきますが、日本を例にとります。日本では有名な元寇。モンゴル軍が日本に攻め込んだものの神風によって壊滅的な被害を受けたため、日本は救われたという話は日本史で聞かされますが、この時沈んだ船が実際に発見されています。授業では沈没船の話はほとんど聞きませんが、「蒙古襲来絵詞」という絵を教科書で見たことがあると思います。モンゴル軍と馬に乗った日本の武将が戦っている絵で「てつはう」と呼ばれる手榴弾のようなものが炸裂しているあの絵です。火薬を使った武器が13世紀に実用化されていたとは考えにくいため、絵に描かれた武器は後世のつけたしだと考えられていたそうですが、沈没船から実際に丸い炸裂弾のようなものが見つかっており、これがそうだとすると最古の火薬を使った武器ということになるそうです。
このような大発見が沈没船には期待されることが初めて分かったのですが、現場が水中とあって作業には時間も費用もかかる上、遺物の保存処理に大変な労力が必要なのだということもも分かりました。今後、発展していくであろう研究分野です。本書はかなり読みやすい内容でさくーっと読めてしまいます。なので水中考古学の面白さがすらーっと入ってきます。入門としてはかなりいいのではないでしょうか?
ここで紹介した本は以下で取り扱っております。