『シュリーマン・黄金発掘の夢』
前回紹介した自伝『古代への情熱』を別の角度で検証した内容となっており、自伝はシュリーマンと親密な親交のあった人たちによって書かれたものであったのに対し、本書は完全に一歩引いた目で中立的な立場で書かれています。すなわち、自伝には多分に誇大表現や嘘までも含まれているとし、そのような個所と実際にはどうだったのかということが指摘されています。例えばトロイアの発掘において黄金などの出土品が作業員に盗まれないようにそっと取り出してソフィアのショールやスカートに包んで持ち出したという有名なくだりがありますが、実際には妻はそこにはいなかったとされています。発掘の成果を幼いころに読んだ本に無理やり結びつけようとしたため現代では多くの矛盾が指摘されているといいます。
とはいっても一方的な批判を展開するのではなく、当時の発掘が学術的なレベルに達していなかった状況や、どうであれ誰も見つけられなかった遺構や遺物を発見したのは紛れもなくシュリーマンであり、そこからギリシアの青銅器時代やエーゲ海の原史時代の研究が開けたという意味で一定の評価がされています。また、シュリーマンは彼に反対する者に対し、真っ向から議論することが多かったのですが、自分の信念によほど自身があったのか、より考古学に精通した学者とともに発掘したり、建築家を投入したりなどその道の専門家を雇い、あらゆる視点で自分の仮説を証明しようとしました。結果的には仮説は間違っていたのですが、当時としては他の専門家を参加させるのは異例であったらしく、学際的発掘の先駆者としても評価されています。
自伝には見られなかった出土品のカラー写真やイラスト、当時の発掘風景などが豊富に掲載されており、読む者を飽きさせません。巻末資料として自伝も掲載されており、これ1冊で別々のシュリーマン像を知ることができます。
ここで紹介した本は以下で取り扱っております。