Books:本の紹介

『ラルテ・ヴェトラリア』 17世紀初頭のガラス製造術2011.10.06

『ラルテ・ヴェトラリア』 17世紀初頭のガラス製造術

  • アントニオ・ネリ著 日本ガラス工芸学会編 黒川高明・上松敏明 監訳 坂田浩伸・池田まゆみ 訳
  • 2007
  • 187ページ
  • 春風社

vitrum lab.評

目次が長いので先に書評を書きます。本書は1612年にイタリアのフィレンツェの修道士アントニオ・ネリによって書かれたL’Arte Vetrariaの訳本です。といってもネリの書は1662年メレットが英訳、これをもとに1668年オランダでフリジウスがラテン語訳、1679年ドイツでクンケルが独語訳、70年以上後の1752年にはドルバックがネリ、メレット、クンケルの著書をもとに彼自身の注釈をつけて仏語版を完成させるなど、長い年月、翻訳されながら後世に受け継がれており、このドルバックによるラルテ・ヴェトラリアを日本ガラス工芸学会が翻訳したものが本書です。

12世紀の修道士テオフィルスによる『さまざまの技能について』をはじめ、ガラスの技術に関する書物はいくつか出版されているが、それらは部分的なものであって、ガラスの製造実験を通して化学的な目で(当時はまだ錬金術のようなものであったが)ガラスを扱ったものはネリが初めてでした。彼については詳細は分かっていませんが、1576年フィレンツェで生まれ、1614年に38歳の若さで亡くなっています。

本書は編集者による簡潔な解説と、本文133章と図版(ネリ版にはなかったが、ドルバック版で付け足された)から成る内容で、最後には用語解説も付いています。単にガラスを調合する内容にとどまらず、原料そのもの、例えばソーダや着色剤などの製造法も書かれています。読んでみると、ネリは数々の実験を行い、比較して述べていることが分かります。たんたんと製造方法について書かれているだけで、内容に起承転結など起伏はなく、物語的な面白さを求めることはできませんが、書いている内容が本当ならば当時、ガラスを作るのに多くの工程と忍耐を要したことが伝わってきます。こんな作り方をしていたら、現代的な考えでは流通ルートに乗っからないのではないかと思ってしまいます。

個人的に興味を持ったのは、そもそもガラスは宝石や貴石を模倣するために生み出されたと考えられているのですが、実際、ネリのガラスはオリエントのあらゆる貴石を模倣することができると自負しているところ、鉛ガラスを実際に吹き竿で吹くという、現在では見られない鉛ガラス吹きについて述べているところなどです。

翻訳時にかなり言葉を選んで訳していると思われ、比較的に読みやすいです。化学的な知識があればさらに理解を深めることができるかもしれません。

以下、目次です。長い!

第1巻

  1. ロケッタおよびスペイン産ソーダから塩を抽出する方法
  2. イタリア語で通称ボッリートと呼ばれるガラスのフリットを調整する方法
  3. レヴァント産の灰あるいはロケッタから水晶と同じくらい良質なクリスタルガラスをつくることのできる塩を抽出するために著者が考案した新しい方法
  4. クリスタルガラスの金色についての所見
  5. かなり美しいクリスタルガラスをつくるための塩をシダから抽出する方法
  6. きわめて美しいクリスタルガラスをつくるための他の塩の製法
  7. 十分に良質のクリスタルガラスつくるのに役立つ塩の調整
  8. ロケッタとスペイン産ソーダから通常のフリットをつくる方法
  9. 一層完全なクリスタルガラスをつくる方法
  10. クリスタリーノと無色のガラス、あるいは普通のガラスと呼ばれるものの製造方法
  11. 酒石の塩を精製する方法
  12. ガラス工芸において色付けに用いられる呉須を調整する方法
  13. ガラスに着色するためのマンガンの調整方法
  14. ガラスに着色するためのスペインの赤土(酸化銅)を調整する方法
  15. 赤土(酸化銅)をつくる他の方法
  16. ガラスに着色するためのサフラン・ド・マルスの製法
  17. サフラン・ド・マルスの別の製法
  18. サフラン・ド・マルスをつくる別の方法
  19. サフラン・ド・マルスをつくる他の方法
  20. ガラスに青またはアクアマリン色を与えるイタリア語でトレモランテあるいはオルペッロと呼ばれる薄片を煆焼する方法
  21. ガラスに透明な赤、黄、玉髄の色を与えるオルペッロを煆焼するための別の方法
  22. ガラスを着色することのできる主要な色の一つのアクアマリン色を調整する方法
  23. 別のアクアマリン青
  24. ガラスにいくつかの色を生じさせる赤い粉
  25. ガラスを着色するための3回煆焼した銅
  26. イタリア語でボッリートと呼ばれるクリスタルガラスにアクアマリン色を与える方法
  27. これら全ての色に関する一般的な注意事項
  28. より簡単で費用の少ないやり方で銅を3回繰り返して煆焼する方法
  29. 前述の薄片を用いてクリスタルガラスに美しいアクアマリン色を与える方法
  30. 少ない費用でアクアマリン色を得る方法
  31. 既存の方法よりも優れた著者発明によるアクアマリン色
  32. エメラルドグリーン色
  33. 上述のものよりさらに美しい緑色
  34. 見事な緑色
  35. 前例のどれよりも一層美しい緑色
  36. ガラスにおける主要な色の一つであるトルコ石の青

    第2巻

  37. 玉髄、瑪瑙、碧玉をつくる方法
  38. 銀および水銀を溶解するのに適した硝酸をつくる特別の方法
  39. 硫酸を精製純化してそこからきわめて効力のある硝酸をつくる方法
  40. 金および銀を除く他の金属を溶解するのに適した王水をつくる方法
  41. 酒石を煆焼する方法
  42. 玉髄を模倣するかなり優れた組成物をつくる方法
  43. 玉髄を模倣する第2の方法
  44. 玉髄をつくる第3の方法

    第3巻

  45. 水晶でフリットをつくる方法、ガラスを真珠色に染める方法、その他ガラス製造術で必要な特殊な方法、
  46. ガラスに金色を与える方法
  47. ガーネット(ざくろ石)を模倣する方法
  48. アメシスト(紫水晶)の色をつくる方法
  49. サファイア色
  50. なお一層美しいサファイア色をつくる方法
  51. 黒色
  52. なお美しい別の黒色
  53. なお一層美しい別の黒色
  54. 美しい乳白色
  55. なお一層美しい乳白色
  56. ガラスに大理石の色を与えること
  57. 桃の花の色
  58. 濃い赤色
  59. 水晶を模倣する方法
  60. 真珠の色

    第4巻

  61. 鉛ガラスをつくる方法
  62. 鉛を煆焼する方法
  63. 鉛ガラスをつくる方法
  64. 前章の鉛ガラスを成形する方法
  65. 鉛ガラスに美しいエメラルド色を与える方法
  66. 前に述べた全てのものにまさるエメラルドの別の緑色
  67. 鉛ガラスにトパーズの色を与える方法
  68. アクアマリン色の鉛ガラス
  69. ガーネット色の鉛ガラス
  70. サファイア色の鉛ガラス
  71. 黄金色の鉛ガラス
  72. ラピスラズリの色
  73. 水晶を溶融することなしに毒蛇のまだら色に染める方法
  74. 水晶にバラスルビー(紅尖晶石)、ルビー、トパーズ、オパールなどの色を与える方法

    第5巻

  75. 貴石を模倣する方法
  76. 次に続く作業のために水晶を調整する方法
  77. エメラルドをつくる方法
  78. 濃いエメラルド色
  79. エメラルド色のための別のガラス素地
  80. 別の方法
  81. トパーズ(黄玉)をつくる方法
  82. 橄欖石をつくる方法
  83. 空色
  84. 紫に近い空色
  85. サファイアの色
  86. 濃いサファイアの色
  87. オリエントのガーネットの色
  88. さらに濃い色のガーネット
  89. きわめて美しい別のガーネット
  90. 貴石模造用ガラス素地とそれらの色についての注意
  91. あらゆる種類の貴石模造用ガラス素地の、現在まで殆ど用いられていない、素晴らしい製造方法
  92. 最も硬いあらゆる色のガラス素地を調整する方法

    第6巻

  93. あらゆる種類のエナメル釉のための基本素材
  94. 乳白色のエナメル釉
  95. トルコブルー色のエナメル釉
  96. 空色の別のエナメル釉
  97. 緑色のエナメル釉
  98. 緑色の別のエナメル釉
  99. 緑色のさらに別のエナメル釉
  100. 黒色のエナメル釉
  101. 黒色のさらに別のエナメル釉
  102. 黒色のさらに別のエナメル釉
  103. 赤紫色の、あるいはワインレッドのエナメル釉
  104. 赤紫色の別のエナメル釉
  105. 黄色のエナメル釉
  106. 青色のエナメル釉
  107. 紫色のエナメル釉

    第7巻

  108. エニシダの花から黄色のレーキ顔料を抽出する方法
  109. けし、アイリス、赤いすみれ、およびあらゆる新鮮な植物からレーキ顔料を抽出する方法
  110. オレンジ、野生のけし、アイリス、普通のすみれと赤いすみれ、赤いばら、るりぢじゃ、グラジオラスなどの花からレーキ顔料と絵の具を抽出し、また、あおい、オランダワレモコウ、その他の草から緑色を抽出する方法
  111. ドイツ青に似た青色をつくる方法
  112. 褪色した本物のトルコ石の色を回復させる方法
  113. 鏡をつくるための組成
  114. 貴石を模倣するためにガラス球あるいはガラス容器の内側に着色する方法
  115. ウルトラマリンの青色をつくる方法
  116. 絵画用の深紅色のレーキ顔料をつくる方法
  117. ケルメス染料(深紅色)抽出に用いるべき溶剤
  118. ブラジル蘇芳の木あるいは西洋茜の木から同様に美しいレーキ顔料を抽出する方法
  119. カーミンカイガラムシ粒からもっと容易にレーキ顔料を抽出する方法
  120. ガラスに透明な赤色を与えること
  121. 血の赤色
  122. バラスルビー(紅尖晶石)の色
  123. エナメル細工とガラス製造術のために非常に有用な鉛糖を抽出する方法
  124. イタリア人がロシキエロと呼ぶ、金に被せるばら色のエナメル釉をつくる方法
  125. ばら色の別のエナメル釉
  126. 前述の用途に適した硫黄をつくる方法
  127. ばら色のエナメル釉の代わりに用いることのできる血色ガラス
  128. ばら色のエナメル釉をつくる確実な方法
  129. 透明な赤
  130. ばら色のエナメル釉に使用するために硫黄を安定化(不揮発化)する方法
  131. 第1巻第31章に述べた硫酸銅について
  132. 腐食剤を使わずに硫酸銅を得、次いで美しいコバルトブルー色を抽出する方法
  133. 前述の着色した水から硫酸銅を抽出する方法

vitrum labook

ここで紹介した本は以下で取り扱っております。

2011.10.06 09:43 | ガラス, , 考古学

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