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『わが人生の記』十八世紀ガラス職人の自伝 – Vitrum Lab.

Books:本の紹介

『わが人生の記』十八世紀ガラス職人の自伝2011.09.26

『わが人生の記』十八世紀ガラス職人の自伝

『わが人生の記』十八世紀ガラス職人の自伝

  • ジャック=ルイ・メネトラ著 ダニエル・ロシュ校訂・解説 善安朗 訳
  • 2006
  • 569ページ
  • 白水社
  1. 序 (ロバート・ダーントン)
  2. ある庶民の自叙伝 (ダニエル・ロシュ)
  3. わが人生の記 (ジャック=ルイ・メネトラ)
  4. ジャック=ルイ・メネトラ、十八世紀を生きたある人生のかたち (ダニエル・ロシュ)

訳者あとがきより

・・・誰も十八世紀のパリにガラス業の手工業者ジャック=ルイ・メネトラなる人物が存在したことなど知らなかったし、ましてやその人物が草稿で三五〇ページになる『わが人生の記』と題する文章を、いわば自伝という形で、自分の人生を堂々たる自己主張のようにして書き残しているとは気づかなかった。歴史家たちが参照してきた厖大な文献・資料のなかのどこにも、そのような記録が残されていることを推測させる指摘は存在しなかったのである。
 ところが一九七〇年代になって、啓蒙期を研究対象とする歴史家ダニエル・ロシュが、パリ市歴史図書館に埋れていた二束の草稿を発見する。・・・

vitrum lab.評

中世ヨーロッパの吹きガラス職人はよく各地を転々としながら制作していたとされるので、てっきり吹きガラス職人の自伝かと思っていましたが、メネトラはステンドグラスや窓ガラスなどをはめ込む技術を持った職人でした。しかしながら、職人が書いた自伝とはどういうものだったのかという興味と、ガラスについて何か技術的な記述があるのだろうかという知的好奇心から読みました。内容はメネトラによる自伝のほか、ロバート・ダーントンによる大まかな内容解説、ダニエル・ロシュによる詳細な解説で構成された大著です。

フランスの啓蒙期のことなど何も知らない私にとって解説は難解なものでしたが、この自伝がどういう点で重要なのかということが書かれています。すなわち、私たちが過去の歴史を知るための資料として利用しているものの多くは、支配階級からでた洗練された作品であるが、実際にはメネトラのように庶民階層でも当時は読み書きができ、手紙や書類を書いてやり取りしていたのですが、身分の低い人々の下手でつづりが間違った手紙が研究者に探されることがなかっただけのことなのです。

ロシュによると彼の文章には句読点がなく、章や節に分けることもされておらず、一般的な文章上の決まりからは外れたものとなっていて読解にはかなりの労力を費やしたそうです。また、内容を詳細に精査すれば作り話も多分に盛り込まれており、例えばメネトラがある人物に会ったと書かれている場面は、実際にはその時、その人物はすでにこの世を去っていて会えるはずがない・・といったことがあるので、歴史家がこのような文章をうのみにして史実としてすぐさま取り扱うことはできないとロシュは言いますが、しかし、彼はこの自伝の内容を史実と照らし合わせることよりも、そこに示されている一庶民の奔放な想像力の示す芸術的な価値のほうに注目すべきであるとしています。そして、メネトラが書き記した出来事が当時の民衆文学から話を借りてきていたりするので、当時どのような文学が広まっていたのかが読みとれたり、メネトラは何度も教職者のことを偽善者呼ばわりし、無知な人間の恐怖心を利用しているだけだとして教会制度を批判はするものの、彼自身はキリスト教を信じてはいるという、啓蒙期の庶民の考え方がリアルに伝わるものとしてみれば、彼の自伝は一級品の資料だとしています。たしかに、私も意外だったのが、まだ教会制度が根強い時代において、庶民のレベルで教職者の分析を冷静に行い、教会の強制力を批判している人物が、宗教革命者ではない庶民層にいたということです。

さて、ガラスに関してはどうかといいますと、メネトラは1738年~1812年に生きたパリ生まれのガラス職人で父の職業を受け継ぎ、修行巡歴で各地を修行を兼ねて仕事を得ながら旅をしています。結論から言いますと、内容的にはガラスのことはほとんど出てきません(笑)。内容のほとんどが、巡歴途中で出会った未亡人や女主人、娼婦などとのアバンチュール、男同士の喧嘩、いたずら、結婚してからも、数は減ったとはいえ相変わらずのアバンチュール、子供のこと、などでとりとめのないことなのですが、時に歴史上の人物、ルソーなどとの交流場面もあります。

少しだけですがガラスに関しての興味深い仕事に、どこどこの修道院でガラスをはめ込む仕事をした、街灯を設置した、ステンドグラスを作ったなどの仕事内容が出てきます。ガラス板を切る道具としてダイヤモンドカッターを持ち歩いていることも記されています。これらの仕事は主に建築業と関わるものですが、当時のフランスは平板ガラスをつくるだけの技術があり、徐々に近代化に向けて街の様相が変わっていく中で、布地や油紙の窓がガラス窓に置きかえられていく時代、彼の仕事はまさにガラス窓を一般化させていくことに貢献するものでした。透明性の高いガラスとして知られるボヘミアンガラスという名称も出てきます。ボヘミアンガラスが板ガラスとしても作られていたようです。私の中では高級器としてのイメージが強かったのですが。

そういうわけでガラス研究からすればあまり参考になる部分はないかもしれませんが、フランスの啓蒙期における一庶民の、それもガラス職人という特殊な技術をもつ人物の自伝という前代未聞の資料として単純に楽しめれば苦じゃないかもしれません。難しく考えると、おそらく読むのがしんどくなると思います。

vitrum labook

ここで紹介した本は以下で取り扱っております。

2011.09.26 23:20 | ガラス,

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