タイトルは「びんのはなし」となっているが缶、樽、紙容器、革嚢、それらを入れるケース、栓、それから酒、サイダー、牛乳などなど、とにかく瓶に関連するあらゆるものが登場し、容器雑学王になれます。著者は専門家と思いきや元ソニーの従業員デザイナーという経歴をお持ちで、また関西育ちのためか随所にダジャレも織り込んだ柔らかい感じの内容となっています。
以前に紹介した『ガラス瓶の考古学』からこの本に辿り着いたのですが、てっきりガラス瓶のことが書かれていると思いきや、読み終わった後にはガラス瓶どころか、瓶の周辺道具まで詳しくなっていました。著者の瓶のハマリ度合いに感心します。今、私たちが何気に使っている瓶、栓、ケース、そして何気に飲んでいる酒、ジュース、牛乳。これらと瓶との関係は今でこそセットとして考えるのが当たり前ですが、当然、最初は互いにばらばらに生み出されたものです。そしてそれぞれに誕生のストーリーと、瓶との出会いのストーリーがあるのです。本書はそのストーリーをいきいきと描いています。
瓶そのものもそうでした。元々は国内で作る技術がなく、空き瓶を輸入していました。やがて先人の多大な努力の甲斐あって、輸入よりも生産が上回るようになり、ついに輸出できるところまでに至りました。こんなエピソードがあります。
―時は明治。ラムネソーダが普及し始めていた頃のこと。製瓶に熱心な徳永玉吉は研究資料としてガラスの屑を買い入れていた。その中からビー玉の入ったラムネ瓶を見つけた。なぜビー玉が入っているのか分からなかったが、幼少の頃から品川硝子製造所で腕を磨いた彼にはある程度まではその作り方を理解することができた。しかし、口の内側に溝を切る方法がどうでしても分からなかった。この溝にゴム輪を入れて、中のビー玉が飛び出さないようにするためのものだが、数年を経てようやく溝の切り方を独力で解決し、ラムネ瓶を国産化することに成功した。ある日、英国人が来てラムネ瓶を借りていった。数日後、特許に触れたとして玉吉は勾留されてしまった。しかし英国側が権利の主張をどうしたことか取り下げた。独創的な工夫でもって見事に模造したことに英国側が感服したからだと伝えられているそうだ。
プ〇ジェクトなんとかに出てきそうなエピソードです。このほかにも様々な開発秘話を知ることができます。容器だけでこれだけ有機的に絡まった話を知ることができる本はあまりありません。研究書のような研究書でないようなそんな雰囲気を持つ独特な本でした。
本書はここでは扱っておりません。