著者は東芝、柴田ハリオ硝子を歴任されたガラス工学のエキスパートです。本書はガラスについて徹底的に理系的視点で追求しており文系的視点はほとんどありません。そのため、個人的には非常に難解ではありましたが、古代ガラス研究としては着色剤の部分が最も興味深いところだと思います。本書は色のつき方について結構なページを割いています。実際、この本を知ったのは、ガラスの色について東京理科大の方にいろいろ伺っていたときに紹介していただいたからです。
例えばガラスに色をつける場合、色を発色する金属を添加する、放射線を当てる、焼付け・塗装するなどの方法があり、これらのうち古代ガラスでは特に成分分析からどんな金属が色を発色させているのかが問題になりますが、科学の世界ではさらに踏み込んでなぜ色が発生するのかという研究も行われるわけです。簡単に言うと全ての波長を持った光は白色ですが、ある金属によってその一部が吸収されると、白色ではなくなり、それ以外の波長で構成される色となって目に映るようになります。金属によって吸収される波長が異なるので、何をガラスに入れると何色になるかというのがわかります。複雑なのはその色味は、ガラス素地(アルカリガラスなのかカリガラスなのか鉛ガラスなのか)、窯の中の雰囲気(酸化雰囲気なのか、還元雰囲気なのか)によって、同じ発色金属を使っても結果が異なってくるという点です。その理由の説明にはイオン半径やらイオン同士の結合力といった説明がなされています。残念ながら端的にそれらを説明できる能力は私にはありませんが、科学的な視点で本書では詳細に述べられています。考古学的な古代ガラス研究ではそこまで知っていなくても研究は可能ですが、中には微妙な色加減のものも存在するので、そういった場合はこのようなアプローチで追求することもあります。
燃焼においては固体燃料、液体燃料、気体燃料がそれぞれどのような仕組みで燃やされ、ガラスを熔かすのか、バーナーの種類と特徴、炉内はどのように熱が移動、循環するのか、ファンをどこに取り付けるとよいか、など文系の頭では想像が付きませんが、これらを測ってグラフ化したりなどもしています。また、ガラスの修復には必要な知識ですが接着剤についても簡単に触れられていたり、気泡、異物に関しての検出方法なども書かれています。
このようにガラスに関するあらゆる内容が盛り込まれた大著といえますが、難解な内容であり若干くどいところもあってさらに理解を難しくしているのですが、古代ガラス研究だけでいうと、上述したように発色の仕組みのところだけでも十分にお役に立つと思います。
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