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『考古学とポピュラー・カルチャー』2015.03.18

『考古学とポピュラー・カルチャー』

 

  • 櫻井 準也
  • 2014
  • 同成社
  • 149ページ
  1. 考古学者イメージの虚像と実像
  2. 戦前~1970年代作品に登場する考古学者
  3. 1980年代・90年代作品に登場する考古学者
  4. 2000年代の作品に登場する考古学者
  5. 考古学者像の変貌
  6. 映画・テレビドラマ・アニメ作品の中の遺跡
  7. 考古学者と現代社会

vitrum lab.評

考古学とポピュラー・カルチャー(大衆文化)。聞き慣れない、新しい考古学の方向性を示すものだと
思っていましたが、この考え方自体は「パブリック・アーケオロジー」として海外では
1970年代にはすでに提唱されていたようです。

本書の大半は、一般人が考える考古学者のイメージに対するアンケート結果や、テレビドラマ、映画、アニメなどに
登場する考古学者がどういったもので、それらが時代とともにどう変わってきたか、海外と日本との違い、などに
割かれていて、その調査が一体何を目的として、どうつながっていくのか分かりませんでしたが、最後の最後で
筋が見えました。

要約すれば考古学と社会との関係性を研究する学問なのですが、なぜこのような研究が行われてきたのかと
いうと、遺跡の破壊を防ぐため、考古学者が市民を教導するシステムの構築の必要性があったからだそうです。
単に「遺跡を守りましょう」と言っても、一般人からすれば開発の妨げになると考える人もいるでしょうし、遺跡を残す
必要性に理解を示してもらうためには、考古学者が先頭に立って納得できる形で遺跡を残し、活用していくことを
説かなくてはいけない。そのために、現代の人々が遺跡や遺物に対してどう感じているのかを知る必要がある。
それは大衆文化を通じて知ることができるのだということで、本書の大半を考古学者のイメージについて割いている
ということでした。

ホトフルという人は、大衆は考古学的事実に基づく知識よりも、考古学に対する特定のイメージに基づいて自ら
考古学イメージを作り上げるものであって、考古学者がこれをコントロールできるものではないとさえ述べています。
大衆の考える考古学というものを、考古学者が知らない限り、いくら遺跡や遺物の活用を叫んでも無駄だと主張
しているように思えます。これはどこかブランド作りや商品開発にも繋がる考え方のように思います。
いくら「こだわってます。いいもの作っています」と言ったところで、消費者が何を望んでいるのかを知らなければ
全く売れないからです。こうした経済的な考えと通じるところがある点に納得したのが、本書の最後になって
登場する「観光考古学」。現在、遺跡の活用にはレジャー産業が積極的に関与するようになったということですが、
遺跡を保存するだけでなく活用することで、地域の活性化、町おこしにつなげていこうという動きが活発化している
ようです。

これはこれで難しい問題をはらんでいます。例えば奈良の平城宮跡。朱雀門が復元されていますが、こうした建築物
を復元する時、史料では分からない部分も形にしなければならないため、数ある可能性の中から1つ選ばなければ
ならず、復元が当時の姿を100%伝えているかといえばそうでないこともあります。

しかし本書でいえば、それは考古学者、歴史学者の観点であって、大衆はそんな細かいことはどうでもよく、イメージ
できればいいのだ、ということでしょうか(笑)

ちなみに、考古学を専攻していたと言うと、時々インディ・ジョーンズの話になったりすることがありますが、インディ・ジョーンズは
考古学者ではなく、あれはトレジャーハンターです(笑)。しかし、この映画の影響力はすさまじく、1980年代に映画が公開されて
からは、映画、ドラマ、アニメなどに登場する考古学者はトレジャー・ハンターとして描かれることが多くなったようです。

また、考古学者のタイプについても述べられていますが、これは母校でお世話になった元奈良大学教授・酒井龍一先生の『考古学者の
考古学』という本が取り上げられていました。タイトル通り、考古学者を分類するという、一風変わった内容の本です。

 

vitrum labook

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2015.03.18 23:39 | , 考古学

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