『私たちは今でも進化しているのか?』
食品問題、健康、考古学に関心があるなら面白い一冊。
人類は肉や野菜を食べてきた時代が長く、農耕を始めてまだ1万年ほどしか経っていないため、
穀物や乳製品は 人類がそれら食物に適応していないため健康によくない。ライフスタイルも、
人類はまだ遺伝子的に旧石器時代の 状態だから、現代には適応していない。だから旧石器時代
の生活に合わせて生活することがよいことだ、という考えが アメリカで話題になっているらしい。
そしてそれを実践するために、例えば肉や野菜を食べ、乳製品は食べてはいけない、 運動は
不可のかかるものを短時間で、といった食事やエクササイズを推奨する。
なるほど、この考えの裏には考古学や人類学、生物学的な根拠がありそうだ。本書ではこのような
”昔はよかった”的な考え (本書ではパレオファンタジーと表現しています)に対し、これら学問から
議論を展開。そうするとあれ?その根拠が弱いどころか、 現代人は遺伝子的に旧石器時代人のまま
であるという前提そのものが揺らぐことになります。
これはTVで健康にいいと紹介された商品が、瞬く間に売れるという日本でおなじみの現象にも共通
するもののように思われます。 その根拠が後年になって実は弱いものだったり、賛否両論だったりする
ことが多々あります。
本書で異議を唱えるのは主にパレオファンタジーに対してですが、本書のテーマはパレオファンタジー
信仰者への批判 ではなく、あくまで「我々は今でも進化しているのか」という人類の可能性です。気の遠く
なるような時間をかけてしか進化しない と考えられてたことが、100世代ほどで進化を遂げた生物の例や、
牛乳の成分を分解できないから乳製品は体によくない と言われていたのが、分解できる能力を身につけて
いる人が存在しているという研究例、「添い寝」「カンガルーケア」といった 新しい育児方法が子供にとって
自然な育児方法だという主張に対しては様々な育児方法が文化的に存在し、 唯一の正しい育児方法はなく、
多様な文化が存在する中で一つの育児方法を押しつける危険性が述べられています。
以上の例は本来の考えが実はそうではないかもしれないという例ですが、健康にしろ、育児にしろ、こういった
様々な「これがいい方法ですよ」 という考えが生まれては消えていく背景には、変化が速すぎる今の時代に少しでも
適応しようともがいている人間の苦悩の表れかもしれません。 しかし、著者が結論づけているのは、どの学問の研究
からも言えるのは、人類はおろか、生きとし生けるものすべて(細菌、ウイルスも含む) が、どの時代を切り取っても適応
していた時代はないし、これからも 適応し、進化が止まることはないだろうということ。
したたかな遺伝子の姿を垣間見ることができる1冊で、いかに私たちが自分の都合のいい部分だけしか信じようとしない
のかということにも気付かされます。
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