『100のモノが語る世界の歴史』2
神戸市立博物館で2015年に開催された本書と同名の展示「大英博物館展 100のモノが語る
世界の歴史」展のカタログをさらに発展させて、1点1点詳細な解説を入れた読み応えのある本。
3冊あるシリーズ本のうちの2冊目。
テーマは大英博物館の所蔵品の中から、時代や地域が偏らないように世界全体を可能な限り平等に網羅できる
100点を厳選し、それらの解説を試みるというもの。この第2冊目は1冊目の続編で、副題として「帝国の興亡」が掲げられています。
本当に1点1点、丁寧な解説がされていて、図録では味わえない魅力を存分に伝えています。また、
その所蔵品に対してコメントを求めている人々もさまざまで、中には研究者ではなさそうな人のコメントも
多々見られ、それがまた違った見方を提示しているので面白い。たしかに博物館に行って展示物を見る人は
様々な職業の人で、見る動機も見方も感じ方もみんな違って当たりまえです。
本書には1点、ガラスが登場します。「ヘドヴィグ・ビーカー」と呼ばれているもの。ヨーロッパでキリストの
奇跡の証として崇められてきたガラスで、タンブラーのような器形全体に動物らしきものが抽象的にカットされて
いる透明ガラス。”ヘドヴィグ”とはポーランドでは”ヤドヴィガ”と呼ばれる人物名で、ヨーロッパ中世の聖人
とされていた人物。当時は衛生的に水を飲むよりワインを飲む方が安全だとされていましたが、彼女は水しか
飲まなかった。ある時、彼女が水のグラスを飲もうと口をつけるとそれが奇跡的にワインに変わった、という
逸話がありました。それがこのヘドヴィグ・ビーカー。
近年では化学分析からソーダ石灰ガラスだと判明しており、東地中海沿岸地域で作られたのだろうと言われて
います。ムスリムの職人が作っただろうとのこと。ヘドヴィグの義兄だったハンガリー王がシリアに滞在したことがあることからこのビーカーとのつながりが指摘されています。
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