Blog:羅馬は一日にして成らず -2nd edition-

講演「青へのあこがれ 古代エジプトのファイアンス」②2019.02.03

ファイアンスの技術はなぜ失われた?

ファイアンスをつくるときにみせた青色へのこだわりは後世にも
受け継がれたようであるが、ファイアンスそのものをつくる技術は現代には伝わっていない。
その理由として考えられるのは

  • 扱いにくい
    可塑性が低すぎて成形するのが困難であること。後に、白い陶土に青い釉薬をかけて
    似たような雰囲気の陶器がつくられている。ファイアンスでなくても白地に青という意匠がつくりだせた。
  • ガラスの登場
    実験ではファイアンスは850度程度を長時間維持すればつくれることがわかっている。多少の温度差が
    生じても問題ない。一方、ガラスは常に1000度以上を維持しなければならないという条件が必要だが、
    鋳造や型吹きによって、同じ型を使って同じものがいくつもつくれた。ファイアンスの場合は型を使いまわし
    することが難しい。

以上のような要因でファイアンスは廃れ、2世紀くらいで姿を消したと思われる。

*ちなみに、鋳造ガラスも紀元前1半ば頃に吹きガラスが誕生したことで同じくらいの時期に廃れる。

ファイアンスはなぜつくられた?

古代エジプトにファラオが誕生する直前直後あたりに、ファイアンス製の立体造形物が盛んにつくられる。

神に捧げる器台と壺のセット(一体型)、神聖視された動物(ライオン、カバ、カエル、昆虫など)
など、奉献のためのものが多い。

「ファイアンス」とは当然現代の呼び名である。当時は

  • チェヘネト(チェネト)
    光り輝くもの、人工物質、緑色、青色、青緑色、準貴石という意味
  • メフカァト
    青、青緑色したもの、ガラス、ラピスラズリ、銅鉱石、貴石という意味
  • ヘスベジュ
    青色の物質、”人工のヘスベジュ””ヘスベジュでつくった窓”と書かれることも

などの呼び方があった。直接「ファイアンス」を指すわけではないがファイアンスを表す表現として知られている。

なぜ青緑色が好まれたのか?

ファイアンスは墓からよく出土し、護符に青緑色ファイアンス製のものが多い。なぜこの色が好まれたのか。

  • オシリス神(死後、神になった)、ゲブ神(大地の神)と同じ色=自然、芽吹く色、復活再生

このように生命に関わる色として青が重要視されたという主張の他に、他の色と違って青い色は発色が
比較的容易であったという技術的な理由もあるのではないか。

ハトホル神との関わりも興味深い。(「ハトホル神」で検索してみて下さい)
古代エジプトでは横から見た絵を描くことが多い中で、ハトホル神は正面の顔を描かれることが多いことで知られる。
耳の特徴から牝牛を神格化した神で、牝牛の姿でファラオに授乳させている姿で描かれる。
国の母、王権の女神とも言われる神で、セラビト・エル・カディムに神殿があるが、ここがどこかといえば
シナイ半島の銅鉱石が採掘されていた場所。トルコ石=青色と関係する女神として知られる。

つづく

ファイアンスについては過去に横浜ユーラシア文化館で展示がありました。
その時のカタログに詳しいです。Amazonでは取り扱いがないもよう。

『古代エジプト 青の秘宝 ファイアンス』

この講演についてはこちらの本がおすすめ

2019.02.03 15:50 | ブログ, 研究会

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