『ラルテ・ヴェトラリア』 17世紀初頭のガラス製造術
目次が長いので先に書評を書きます。本書は1612年にイタリアのフィレンツェの修道士アントニオ・ネリによって書かれたL’Arte Vetrariaの訳本です。といってもネリの書は1662年メレットが英訳、これをもとに1668年オランダでフリジウスがラテン語訳、1679年ドイツでクンケルが独語訳、70年以上後の1752年にはドルバックがネリ、メレット、クンケルの著書をもとに彼自身の注釈をつけて仏語版を完成させるなど、長い年月、翻訳されながら後世に受け継がれており、このドルバックによるラルテ・ヴェトラリアを日本ガラス工芸学会が翻訳したものが本書です。
12世紀の修道士テオフィルスによる『さまざまの技能について』をはじめ、ガラスの技術に関する書物はいくつか出版されているが、それらは部分的なものであって、ガラスの製造実験を通して化学的な目で(当時はまだ錬金術のようなものであったが)ガラスを扱ったものはネリが初めてでした。彼については詳細は分かっていませんが、1576年フィレンツェで生まれ、1614年に38歳の若さで亡くなっています。
本書は編集者による簡潔な解説と、本文133章と図版(ネリ版にはなかったが、ドルバック版で付け足された)から成る内容で、最後には用語解説も付いています。単にガラスを調合する内容にとどまらず、原料そのもの、例えばソーダや着色剤などの製造法も書かれています。読んでみると、ネリは数々の実験を行い、比較して述べていることが分かります。たんたんと製造方法について書かれているだけで、内容に起承転結など起伏はなく、物語的な面白さを求めることはできませんが、書いている内容が本当ならば当時、ガラスを作るのに多くの工程と忍耐を要したことが伝わってきます。こんな作り方をしていたら、現代的な考えでは流通ルートに乗っからないのではないかと思ってしまいます。
個人的に興味を持ったのは、そもそもガラスは宝石や貴石を模倣するために生み出されたと考えられているのですが、実際、ネリのガラスはオリエントのあらゆる貴石を模倣することができると自負しているところ、鉛ガラスを実際に吹き竿で吹くという、現在では見られない鉛ガラス吹きについて述べているところなどです。
翻訳時にかなり言葉を選んで訳していると思われ、比較的に読みやすいです。化学的な知識があればさらに理解を深めることができるかもしれません。
以下、目次です。長い!
第1巻
第2巻
第3巻
第4巻
第5巻
第6巻
第7巻
ここで紹介した本は以下で取り扱っております。