著者は『海の底の考古学』を著した水中考古学者と同じ方です。水中考古学の入門というべき非常に分かりやすい内容で、水中考古学の基本的なことから、調査研究例、各国の取り組み、そして、個人的に興味があった保存処理について簡単にまとめられています。この本に限らず、どの水中考古学関連の本を読んでも日本の水中考古学研究やそれを学ぶ体制、法整備、国や地方自治体の取り組みといった、水中考古学を取り巻く環境が全てにおいて世界的に遅れていることが指摘されています。水中で発見される遺跡や遺物は無酸素状態という特異な環境や、人が近づきにくい状態であることによって残存状態が良好のまま発見されることが多く、陸地で見つかるそれらよりも持っている情報が豊富で歴史的に非常に価値のあることが多いといいます。それゆえ、特に海外では商業的にそれらを引き上げてオークションにかけるということが行われており問題となっているようです。
水中考古学を学ぶには海外に留学することが主な道のようで、日本では最近、水中考古学関連の講座が開講された大学がようやく出てきたようですが、やはり、世界的にまだまだ遅れているようです。しかし、日本は海に囲まれていて、そこに眠る海底遺跡は数多くあると見られており、今後、海外で経験を積んだ考古学者が先陣をきって日本の水中考古学を発展させていくかもしれません。
水中発掘ではよくガラスが発見されるので、陸地の発掘よりもむしろ水中考古学の方がガラスを研究する機会が多いように思えます。本書では特に保存処理の章でガラスが登場しています。ガラスの保存処理に関して書かれていることは珍しいです。