著者は水中考古学者です。「水中考古学の父」といわれるジョージ・F・バス氏のもとで勉強した、もともとはヨット好きの方だそうで、脱サラして水中考古学の世界に飛び込んだそうです。その行動力はすごいと思いました。
本書はこれまで紹介した水中考古学関係の本とは少し趣が異なり、学術的な内容というよりもむしろ、彼自身が体験したことを簡潔にまとめて書いてあります。実際にはヨット、モーターボートの雑誌『KAZI』に連載していたものに少し加筆を加えてまとめられた本です。目次紹介を見ての通り、非常にさまざまな場所で活動しており、また、どれも有名な遺跡ですから興味をそそられます。地球の7割は海ですから、想像以上に水中遺跡が眠っているのかもしれません。それらの調査のことを著者はとても楽しそうに語っているのですが、やはり苦労もあったそうで、水中考古学では特に重要視される「保存科学」(遺物の劣化を抑え、博物館の展示や今後の研究に耐えうるものとして利用できるように化学的処理を施すこと)の学科では成績が悪く、ジョージ氏に「日本へ帰れ」と言われたエピソードがあります。堅苦しくみえる学問、ましてや水中に潜る技術をわざわざ身につけ、危険を冒してまでも潜って調査するという体力勝負の学問でありながら、それでもなおその道に進むには心底楽しまないと続けれたものではありません。著者の気持ちは大いに共感できます。楽しくなければ私もわざわざ研究のためだけに自腹で吹きガラスはやりません(笑)。
本書中にガラスはほとんど登場しませんが、トルコのボドルム、和歌山・串本で沈没したエルトゥールル号など、いままで訪れたり興味を持ったことの裏話を聞いているような感覚で読んでしまいました。あまり難しく考えず、気楽に一水中考古学者の体験を聞くという感じでさらりと読めるのが本書です。それにしても新聞や本でも水中考古学関連のものをよく目にするようになりました。日本は島国なので周囲の海にはまだ知られていない遺跡がたくさんあるといいます。そんな環境なのに実は水中考古学を学べるところはほとんどありません。ジョージ氏が串本のエルトゥールル号の調査に乗り出した時の「日本に海洋考古学のドアを開けにきました」という言葉が印象的でした。そしてその言葉通り、2009年に水中考古学を専門的に学べる大学ができたということです。そういった活動が少しずつ広がってきているんでしょうね。
ここで紹介した本は以下で取り扱っております。