2011年に横浜ユーラシア文化館で開催された本書と同名の展示のカタログでもあります。
ファイアンスとは石(石英質)を粉にして水などを加えて可塑性を与え、形作って焼成したもので、
着色のために銅を使うことが多かったため、青緑色をしたものがよく見られます。エジプト関連の
展示では必ずと言っていいほどファイアンスが展示されています。
本書の構成は分かりやすい解説を合間合間に挟みながら、展示品の写真と解説を見ることができ、
博物館カタログにありがちな重くて大きなものではなく、コンパクトなサイズになっていて読みやすいです。
ファイアンス入門書としては最適かと思います。ファイアンス専門書はなかなか見つかりませんので。
原料はガラスと似ているのに、全部が熔け合ってガラス化してはおらず、原料の結晶が確認できるものとしては
ガラスのようでガラスでなく、 焼き物のように形作って焼成するのに、原料自体は石英粉なので粘土のように可塑性はなく、
水などを使って可塑性を与えなければならない点で焼き物ではないという不思議なファイアンスは、紀元前4500年頃から2世紀
まで盛んにつくられたとされ、その技術は現在まで継承されていません。
原料がガラスと似ているという点で、ガラスと関連して興味深い物質で、ガラスの前身だと考えられることもあります。またファイアンス
で作られていた器が後にガラスで作られることもありました。このようにガラスと何らかの関係があることは確実だと思われるので、
ガラスの資料も豊富かと思いきや、やはりテーマは「ファイアンス」。ガラスも見られますが、ファイアンスが圧倒的に多く見られます。
本書の最後に ファイアンスの製作実験についての面白い記事が掲載されています。ガラス以上に実験考古学的な研究が難しい
と思いますが、非常に研究価値のある分野で、今後さらなる研究の発展が期待されます。