将来、それも多分自分たちがまだ生きている時代にやってくるかもしれない食糧問題。今後増え続ける人口に対し、食糧対策は非常に脆いものであると指摘されてきましたが、その根源を食糧を視点にして歴史をひも解く内容。考古学、農業、経済、文献、環境、生物学など普段あまり見かけない分野の成果を組み合わせた面白い内容でした。
狩猟採集社会から農耕社会へ移ったことにより、今の今まで農作物が作られ続けてきましたが、それまでに何度か人類は大きな失敗をしています。例えば灌漑には大量の水が必要となり、地下水をくみ上げ続けた結果、地盤沈下を招きました。大航海時代を経てグローバル化が進むと、儲かる農作物を集中的に植え、売れるところに輸出されるようになります。単一の植物を栽培すると管理は簡単ですが一度害虫の被害を受けるとあっという間に絶滅してしまいます。これによりいくつかの地域で飢饉が起こっています。アメリカのカリフォルニアでは農業の機械化が進みました。農薬、化学肥料による水質汚染や効率化のための機械購入による農民の借金、それにともなう長期契約で自由を奪われます。歴史的にみると、今抱えている問題が何ら解決されていないことに気づきます。
現代の食糧事情は
①土壌が永遠に肥沃
②何世代も理想的な天候が続く
③特化型農業
を前提にして成り立っていることが大問題で、土壌は劣化し、天候が安定し続けることはなく、生態系は多様であることが当たり前なので、この前提が崩れた時の影響は計り知れません。さらに化石燃料が安価に入手できることも前提としているため、エネルギーが高騰すれば当然食糧も値段が上がります。
食糧問題は品種改良によって解決されたかに見えましたが、その品種は大量の水と栄養を必要とし、その種は1代限り。つまり、農民は永遠にその種を種会社から買い続けなくてはならず、化学肥料も維持費も高くつく。農業改革が失敗する主な原因は農民が農業を続けられないこと。環境は汚染され続け、土壌が回復する間もなく次々に植え付けられ、栄養が不足しているため化学肥料に頼る。さらに土壌が汚染されていく。食糧から見た歴史は過去の問題を未解決にしたまま、それでも人口は増え続けているという切迫した問題を突き付けています。これを読んでいると明るい将来は見えてこないように思えます。この深刻な問題を解決するには、適正価格の食糧を買う、輸送コストのかからない近隣の農作物や肉を買う、といった小さな行動を当たり前にしていくという提案がされています。この考え方は最近日本でも根付いて来ているように思えますが、一過性でないことを祈るばかりです。