『沖縄の水中文化遺産』
沖縄の海に沈むさまざまな水中文化遺産の調査にまつわる話が詰まった内容となっています。
ついこの間、フィリピンの海底で見つかった戦艦武蔵と比べれば、これらの 水中文化遺産は
地味に見えますが、これらの背景にまつわるストーリーを考古学者や文献史料学者たちが
多大な時間をかけて紡ぎ、戦艦武蔵には負けないくらいの成果を上げていることが分かります。
例えば、沖縄本島北端近くにある「オランダ墓」と呼ばれる石碑。実はオランダ人の墓ではなく
イギリス人の墓なのだそうで、1872年に沈没したイギリス船ベナレス号の乗組員を葬った墓です。
この沈没事件について、イギリスの史料と沖縄の史料からも確認がとれている珍しいケースで、
そこには当時の現地人が生存者をいかに親切に介抱したかが書かれています。さらに、現地の人は
生存者をイギリスへ送り届けるために、中国に来航していたイギリス船と連絡を取り、迎えに来させ、
きっちりと帰還させたとのこと。後にイギリスからはお礼として時計が贈られたようです。
これは水中考古学と史料学の研究がうまく行った珍しい例ですが、ここまで当時の様子を復元できるように
なるまで、多大な努力が払われたことが本書で読み取れます。
他にも1840年に座礁したイギリスのインディアン・オーク号のお話が出てきますが、日本人が誇りにしていいお話です。
琉球王国だった沖縄は中国と君臣関係を結んでおり、その敵国だったイギリスの船が座礁、乗組員の扱いをどうするか
琉球王国は対応を迫られます。しかし王府は遭難者を救助、平穏に退去させる道を選んだといいます。
水中文化遺産は何も沈没船だけではありませんが、沖縄の海には多くの水中文化遺産が存在していると言われ、
未だ手つかずのまま海底に眠っているようですが、さらにこれらの遺跡の背景には上述のようなストーリーがあるはずです。
水中調査は陸上調査と違って時間もコストもかかるため、遅れがちですが、今も地道な努力が続けられているようです。
これまでに紹介した水中考古学関連の本とは違って、本書は沖縄に特化した内容ですが、それだけに身近に感じることができ、
また、専門書ではないため、水中に関わる文化遺産がどのように調査され、残されていくのかを生の声に近い形で
伝わってきます。余談ですが出版社の「ボーダーインク」も沖縄の出版社で、沖縄に関する本を中心に展開されている
面白い出版社です。
ここで紹介した本は下から選んでご購入いただけます。