『物づくりと博物館と』―消えた手仕事の世界―
高度経済成長期以降、急速に失われていった職人仕事に関わる道具などの展示を主とする
博物館の紹介という内容をイメージして読みましたが、実際には登場する博物館は多くなく、
愛知県の博物館的施設「三州足助屋敷」をメインに取り上げ、失われていく手仕事とそれに従事
してきた職人の考え方(精神)を、実際にその場でつくる職人を配置することによって直接彼らの
手と口から伝えさせようとする試みを評価しているという内容でした。
ここで見ることができる手仕事は藁細工、かご細工、和傘、鍛冶など、たしかに今では機械などによって
大量につくることができて、手づくりではとうてい追いつくことができない生産性の前に消えていこうとする
仕事ばかり。このような展示をあえてなぜ行うのか、何を伝えようとしているのかを考えながら見学させることに
単なる民俗資料館との違いがあるように思いました。なにせ、本当の職人がそこにいるというのですから。
本書には彼らへの聞き取り調査について書かれており、どの職人も共通して職人はお金ではなく、つくった
物への評価がすべてであるというような発言をしていたことに興味がわきました。その価値観ではたしかに
現代の経済社会にはついていけないと感じるものの、また、彼らは共通して今は物を大切にしない時代になった
ということも口にしています。50年以上物づくりをしていても現状に納得しない。まださらにいい物をつくる
ために邁進する、といった時間の使い方も現代では難しい。便利になった分、失われたものもあるということ
でしょうか。消えていく手仕事を展示する必要性がなぜあるのか、その興味深いテーマに挑戦した内容となって
います。
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