『古代海洋民族の謎 フェニキア人』
・・・この本は、堅苦しい歴史書でもないし、興味本位の歴史物語でもない。エッセイ風の味を加えたその中間的存在とでも言えば言えるであろうか。学者でも物語作家でもないライターとしての著作には、これがぴったりしたスタイルなのかもしれない。・・・
私が生まれる前に書かれた本で、新しい本が次々と出版されている中、読むか読まないか迷いましたが、昔の本ではどうフェニキア人が描かれていたのだろうかと思い手に取りました。ちなみに見つけたのは古本屋。
海洋民族で地中海を駆け巡った民族の話ですが地図がなく、最後に索引もなく、写真も白黒で粗いところは使い勝手としては良くないところですが、研究者が書いた本ではないので、どこか独特の雰囲気がある内容です。客観的というよりも主観的な書き方をしてイメージに訴えるといいますか・・・物語風な感じです。あとがきでは「歴史物語でもない」と書かれていますが。
当時の考古学的証拠の少なさという状況から、本書の内容は聖書を多く引用しています。近年の発掘結果など新しい情報を持っていれば少々物足りなさを感じるかもしれませんが、逆に証拠をあれよあれよと持ってきていろんな地名を出されるよりはシンプルに一つの流れとして頭に入るかもしれません。
フェニキア人の出自は今も議論が続いていますが、本書は地中海東岸に定住した航海と商業に優れたカナン人を複数集団から構成される、外洋航海技術と知識を持つ「海の民」が吸収合体したことでフェニキア人が誕生したとしています。この説は広く受け入れられているようです。また、本書ではガラスの発明者もフェニキア人としていますが、今ではガラスの起源はメソポタミアにあるという説が強い。
考古学的な証拠がそろっていない当時としては当然かもしれませんが、前述のように聖書を引用しつつ、フェニキア本土のことをシンプルに描き、ポエニ圏に関してはカルタゴのことが中心に書かれています。その結果内容的には比較的シンプルで、物語風なので読みやすいかと思います。考古学的専門知識を望むならこれではなく、最近のフェニキア関係の本を読むことをお勧めします。
ここで紹介した本は下から選んでご購入いただけます。フェニキアシリーズは充実しています(笑)