『出土遺物の応急処置マニュアル』
・・・『出土遺物の応急処置』は、当初から、実際に保存処置について僅かか、あるいはまったく理解していない人たちのために作られました。ですから、保存にかんするあらゆる問題を解決するような情報は提供しておりません。結論から言うなら、読者は必要な場合には常に保存担当者に相談をしなければなりません。考古学者と保存担当者の間で協力を育むことが、遺跡の福祉(welfare of finds)につながるのです。・・・
発掘しているとさまざまなものが出土します。素材も様々です。発掘されることによって大気中の空気にさらされ、急激に劣化したり、土の重みで変形していたり・・・その状況もまた様々です。もろくなった出土品をうまく取り上げる方法、取り上げた後の保管の方法など常に遺物に対して気を配らなければ、それらがもつ歴史的に重要な情報を失ってしまうこともあり得ますので、考古学者はとても大変な仕事です。
保存科学の本は最近増えてきましたが、研究所や作業場でされる内容のことが多いのですが、この本は現場向けに書かれています。理想は「はじめに」にあるように考古学者と保存科学者が現場にいることでしょうが、そんな恵まれた環境で発掘されることはほとんどないような気がします。なので発掘の責任者がその知識をもっていることが求められます。
マニュアルとは言え、実際にこれを現場で読んで用意周到に処理することは難しいでしょうが、前もって知っているのと知らないのとではやっぱり違ってきます。
この本にはガラスの保存処理についても書かれていました。参考文献をみるとやはり『Conservation of Glass』がありました。ガラスの保存は他の素材と比べると非常に難しいです。土器のように水洗いをすることはできませんし、水に対して劣化しますが、すでに水にぬれている状態ではこれを乾かすと逆効果ですので、その湿気を保ってやるなど、専門的な知識が必要です。実際、レバノンでもガラスが発掘されましたが、もろくなった表面層はぼろぼろとはがれていきます。
レバノンの発掘に行く前にちょっとばかりガラスの保存について勉強していたのが、本当に役立つとは思いませんでした。まああまりたいしたことはやっていませんが、土器のような扱いをされるのは防げたかと(笑)。
出土ガラスは地中から出てきたものはたいてい湿っています。取りだすことでどうしても乾燥してしまうので、せめてそのスピードを緩やかにするように、付着した土ごとポリ袋にいれてしっかりと封をして宿舎に持ち帰り、現地で購入できる食器洗い用のスポンジをくりぬいてひとつひとつガラスを納めるのが私の仕事でした。博物館でたまに布や綿で包んで保管しているところがありますが、古代ガラスは微細なひびが入っていることが多いので、繊維がそこにからんでしまうおそれがあるので最適な保管方法とはいえません。
・・・とまあガラスに関して言えばここまで細かいことは専門書にしか書いていませんが、応急処置に関してはとりあえずこれに書かれていることで役立てるかと思います。ガラスのことしか詳しく言えませんが・・・
ここで紹介した本は下から選んでご購入いただけます。ガラス以外の本も紹介しているところがすてきでしょ?