『日本のウランガラス』
著者の大森氏は日本ガラス工芸学会会員の方です。お会いした時は私は学生の頃で古代ガラスのことでいっぱいいっぱいで他のガラスのことを頭に入れる余裕などなく、あまりお話できなかったのですが、藤井さんの時と同様、この本を見た時、工芸学会の人の本であることはすぐに分かりました。今、原子力発電所の放射能のニュースが毎日のように流れていますが、そう、放射性物質のウランです。あるいは原子爆弾というイメージを持つ方もいらっしゃる方もいるかと思います。
ウランガラスの大きな特徴はブラックライトで蛍光色にうっすらと光るということです。この特徴は知っていましたが、どういういきさつでこういうガラスが作られたのか、なぜ蛍光色に光るのか、そういう基本的な疑問に対する答えを1つも知らなかったので、この本を手に取りました。本書は「ウランガラスとは」を科学的にこんこんと説明するような難解なものではなく、著者はウランガラスのコレクターとしての視点で本を書かれていますので、どちらかというと話口調のような感じで、自身が体験した研究活動を追うようにざっくりとした内容になっています。そして巻頭カラー写真としてコレクションであるウランガラスがたくさん掲載されています。
ウランガラスは地域振興の一環として作られたものだと思っていました。たしかにそうして建てられた岡山県の妖精の森美術館がありますが、その知識はウランガラスのほんの一部でしかありませんでした。本書を読んでなんといっても驚いたのは、ウランガラスが意外にたくさんあること、そして、戦前は特に大阪が製造の中心地の1つだったということです。また、当時はウランが放射性物質であるということは一般には知られておらず、簡単に入手でき、工業ガラスとして大量生産されていました。にもかかわらず、現在、メーカーを同定できるガラスは少ないということです。大阪では今や聞いたことがないガラスメーカーがいくつかあり、海外にも輸出していたといいます。元気だった頃の大阪にウランガラスがからんでいようとは思いもしませんでした。
以上のように研究的な内容ではありませんが、あまりなじみのないウランガラスにスポットを当てた少し変わった内容の本でした。ちなみにウランガラスが放出する放射線は人体に影響を与えるようなものではなく安心であることが分かっています。骨董市などにたまに出ていることもあるそうですので興味ある方はブラックライト片手に探してみて下さい。ウランガラスのようにみえてそうじゃないものもあるそうなのでご注意を。
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