以前に紹介した『実験考古学』と同じ著者ですが、その後もいくつか実験考古学に関するプロジェクトなどがあり、その新しい内容も含めた、いわば続編のようなものになっています。訳者があとがきで記しているように、実験考古学という学問の伝統は日本においてはほとんどなく、ほんの数人が業績を残していますが、彼らは全員アマチュアであることが興味深いとしています。日本で実験考古学を学問的に学ぶための大学や機関がないため、それは当然と言えば当然でしょう。現在も実験考古学の伝統は根付いたとはいえない状況です。それゆえ、やや昔に書かれたこの本は、それよりも古い『実験考古学』同様、実験的手法により考古学を研究するものにとっては大切なバイブルとなります。・・・と、日本の実験考古学研究の現状を少し嘆いてみても、実際の話、少なくとも私の経験からすれば、習得に年数のかかる技術も知識も、設備を持つこと自体が難しい条件の中で身に付けていかなければならないため簡単ではありません。さらに、著者も指摘していますが、ある道具を作って使う実験において、実験者がその扱いに慣れているのと慣れていないのとでは結果が異なると言われた日にゃ、学問として認識されるにはどれだけハードルが高いんだと思ってしまいます。それでも実験考古学は、他の学問分野では得られない意味のある味方を提供してくれることは間違いありません。
本書では、規模の大小はありますがたくさんの実験が紹介されています(日本の実験例は残念ながら登場しない)。例えばいかだで海を渡るという命がけの壮大な実験から、石を砕いて道具を作るという研究室でもできるような実験まで。また、実験は目的に応じてレベル分けされるとし、雰囲気を知るための単なる模造から、社会を考察するものまで色々な段階があり、それぞれ果たすべき目的があると述べています。何回も実験を繰り返すことの重要性、実験に統一性をもたせるためのルール作り、レベルの高低に関わらず記録を取り、誰でも検証できるようにしておくこと、などなど、単なる話題を引く演出に終わるのではなく学問としてどうあるべきか、まさに入門書としてふさわしい内容となっています。
ガラスの実験は残念ながら登場しませんが、豊富にある他の実験例を参考に研究をふかめていくことはもちろんできます。私自身、著者からみてどこまでできているか分かりませんが、ガラスの実験考古学的研究を学問と認められるようにこれからもがんばっていかねばならないと思わせる本でした。
ここで紹介した本は以下で取り扱っております。