Warning: "continue" targeting switch is equivalent to "break". Did you mean to use "continue 2"? in /home/vitrum/www/public_html/wp-includes/pomo/plural-forms.php on line 210
『文化遺産の眠る海』水中考古学入門 – Vitrum Lab.

Books:本の紹介

『文化遺産の眠る海』水中考古学入門2012.05.10

『文化遺産の眠る海』水中考古学入門

  • 岩淵聡文
  • 2012
  • 228ページ
  • 化学同人
  1. 水中文化遺産と水中考古学
  2. 水中文化遺産は誰のもの?
  3. 水中考古学の方法
  4. 世界の水中考古学
  5. 日本の水中考古学

「はじめに」より

「・・・水中考古学をめぐる国際環境は複雑の様相を呈しつつある。主として海にある水中文化遺産の場合、そこには世界各国海洋戦略や文化政策の思惑が絡み合い、国際舞台では外交交渉のカードとして水中文化遺産がすでに使われ始めてもいる。さらに、こうした水中文化遺産をどのように世界統一基準のもとで保全管理していくべきであるのかという模索も、まだ始まったばかりである・・・」

vitrum lab.評

これまで紹介してきた水中考古学関連の文献では、主に水中文化遺産の紹介だったり、どのような方法があるのかといった実践的な内容が中心でしたが、本書では、一部ではそれらについて触れられているものの、軸は1994年に発効した「海洋法に関する国際連合条約」や、2009年に発効したユネスコの「水中文化遺産保護条約」を批准した国々の対応と日本の対応の比較と評価(どちらかというとマイナスの評価)でした。

水中文化遺産というのは、文化的、歴史的、考古学的な性質を有する人類の存在の全ての痕跡を指し、それが一部でも、そして定期的にでも、少なくとも100年間水中にあった遺跡や建造物、人工物、あるいは船舶、航空機などの乗り物とその積載物などが含まれます。注意すべきはそれらに考古学的、自然的な背景をもつものであって、例えば海中パイプラインや電線など現在も使用されていて人為的なものは含まれません。

読み始めた時点ではなぜ水中文化遺産が外交カードとなり得るのか分かりませんでしたが、上記した2つの条約では水中文化遺産の保護を打ち出し、その遺産の文化上、歴史上、考古学上の起源を有する国に優先的な権利を明文化したため、例えば、日本が海底資源探査目的で、ある海域を調査中に水中文化遺産が発見されたとすると、その保護のため、調査が終わるまでは開発は中止、さらに、その水中文化遺産が他国のものであれば、その国の権利を尊重しなければならないため、該当する国の意見を聞きながら調査することになるといいます。しかも、日本には圧倒的に水中考古学者が少なく、研究機関も整備も遅れているため、おそらく海外の研究者が主体となるであろうと、著者は日本の水中文化遺産に対する対応の遅れを危惧しています。これが次世代のエネルギー源として注目されている資源産出地域であれば、日本のエネルギー政策にも影響し、他国の水中考古学者が設定した調査期間中はまったく開発すらできない事態が起こり得るということです。これが本当ならば、水中文化遺産の保護を名目に、日本のエネルギー開発をストップさせる国がでてくるかもしれません・・・そうならないことを願いますが、最悪のケースも日本政府は考えるべきだと警鐘を鳴らしています。

ちなみに「水中文化遺産保護条約」の批准国は2011年では36カ国で、ほとんどの大国と呼ばれる国は批准していないのが特徴です。この条約で水中文化遺産の保護を打ち出したことで、文化財を引き上げて利益を得ようとするサルベージ会社やトレジャー・ハンターを駆逐できるようになったということですが、遺産の保護を優先させなければいけないため、開発が遅れることを嫌がる国が多いということです。あるいは独自の基準を設けいている国もあるということです。

日本はこの条約を批准していません。そのため日本国内では水中文化遺産に対して所有者がでてくることになります。これがまた複雑なのですが、日本では水中文化遺産(例えば小判など)は遺失物扱いになったり、文化財になったりするということで、遺失物扱いになると、今度は「水難救護法」の漂流物関係の法律が適用され、そこには簡単に言うと所有者が現れない場合は、ある手続きを得た上で、拾得者のものになるということです。その後は、それがどうなるのかはその人次第となります。

以上のように、水中文化遺産を巡る動きが近年活発化してきており、内外ふくめて法的処理の仕方にはまだ問題が多いようですが、世界的な動きとしては水中文化遺産を保護していく方向に向かって国内で人材育成や研究機関の設立に力を注いでいる国が増えているようです。本書によって、最近の水中考古学の世界がどのような流れになっているのか新たに知ったことは多かったです。まるで時事問題の本のようでした。法律などが出てくると難しいように思えますが、とても読みやすい内容でした。

ガラスに関しては保存処理の部分で2行ほどですが取り上げられています。

vitrum labook

ここで紹介した本は以下で取り扱っております。

2012.05.10 17:36 | ガラス, 保存科学, , 考古学

コメントを残す