Blog:羅馬は一日にして成らず -2nd edition-

講演「古代ガラスの考古科学」長岡京市埋文センター2012.11.18

以前、京都・長岡京市で金箔が挟まれたガラス玉が発見されたという記事を紹介しました。
今日はその調査についての講演があったので行ってきました。内容は一般の方向けに分かりやすく、
前半はガラスの基本的なこと、後半で問題の宇津久志1号墳出土ガラスについてでした。
講演者は奈良文化財研究所の田村朋美氏。

遺跡名は宇津久志1号墳という古墳で、5世紀前半に年代付けられています。ここから出土したガラス玉
に金箔が挟み込まれたガラスで作られたものがあり話題を呼びました。こういったガラスを「金層ガラス」
「ゴールドサンドイッチガラス」と呼びます。日本では他の地域でも出土例がありますが、数は多くないとのこと。
そしてそれらの中で宇津久志から見つかった金層ガラスは最古ということです。

興味深いのはこれ以外にもたくさんのガラスが見つかっていますが、様々な起源があるという点。

・金層ガラス・・・黒海周辺に出土例が多く、ここが製作地とされる
・環状ガラス・・ナトロンガラス=ローマ・ガラス系
・ガラス小玉・・・インドパシフィックビーズと言われる、中国、東南アジア系ガラス

製造地の違うこれらガラスが長い道のりを経て中国あるいは韓国を経由して日本にもたらされたと考えると、
古代の交易ルートはすでにグローバルと言えます。今後さらに当時の流通ルートを解明していきたいということです。

以下は、講演の詳細ノート。

ガラスの成分

石英・・・石英粉(石英を粉砕したもの)=不純物少ない
海岸・川の砂など(鉄など)=鉄(Fe)など不純物多い

融剤・・・石英だけを熔かすのは非常に高い温度が必要なので融剤を入れる
鉛(Pb)、カリ硝石(K)、ナトロン(Na)、植物灰(Na、K)など

( )で示したように、使われる原料によって化学組成が異なるので、これを検出できれば使われた原料が分かる。

①鉛・・・方鉛鉱(バリウムを含むものもある)→鉛ガラス、鉛バリウムガラス
②ナトリウム ・・・植物灰(マグネシウム(Mg)、カリウム多い)=植物灰ガラス
ナトロンガラス(Mg、K少ない)=ナトロンガラス
③カリウム・・・カリ硝石

地域差

①地中海沿岸・・・B.C.8世紀~A.D.9世紀=ナトロンガラス、9世紀以降、植物灰ガラスに変わっていく
②西アジア・・・B.C. 3000年~ 植物灰ガラス(メソポタミア系、ササン朝系と呼ばれるガラス)
③中国・・・B.C.5世紀~A.D.3世紀 鉛バリウムガラス
④南アジア・東南アジア・・・高アルミナソーダ石灰ガラス

カリガラスの起源は不明。中国?東南アジア?

ガラスの自然科学的調査

①技法・・・実態顕微鏡→気泡、筋の方向の観察など
X線透過撮影→同上

  • 穴の方向に並行して筋や気泡が伸びる→引き伸ばし技法。

典型例はインドパシフィックビーズ:直径6mm以下・単色・引き延ばしという特徴

 

  • 穴の周囲にらせん状に筋→ 巻き取り技法

鉛ガラスに多い。インドパシフィックビーズに対してチャイニーズコイルビーズと呼ばれることも

 

  • 熔けきっていないガラス粒が見える→鋳造。色んな色ガラスを含むものもある

②材質・・・CR法・・・特殊シートによる撮影。鉛ガラスかアルカリガラスかを判別できる。鉛ガラスはX線を透過しないのでシート上に白く写る

AR法・・・カリガラス中から放射性のK40が放出されることを利用しカリガラスと他のガラスを区別する方法。

以上2つの方法は大量のガラスを一気に選別できる方法

蛍光X線分析法・・・元素を検出できる非破壊分析法

  • 鉛ケイ酸塩ガラス・・・鉛ガラス→アジアのガラス
    鉛バリウムガラス→アジアのガラス
  • アルカリケイ酸塩ガラス・・・カリガラス→アジアのガラス
    高アルミナソーダ石灰ガラス→アジアのガラス
    ナトロンガラス(ローマ系)→西のガラス
    植物灰ガラス (メソポタミア系)→西のガラス

流通時代

  • 鉛ガラス・・・B.C.3世紀~2世紀に流行。7世紀に再登場。
    中国産、北部九州に多い、管玉、勾玉多く、小玉少ない
    7世紀前半は銅イオン着色、巻き付け技法中心。百済の鉛
    7世紀後半は初の国産ガラス。
  • 鉛バリウムガラス・・・ 鉛ガラスと流行時代同じ。しかし断絶後は登場することがない。
    ハンブルーを用いた着色管玉は丹後半島出土。朝鮮半島に出土例なく、中国から直接輸入か?
  •  カリガラス・・・B.C.3世紀~6世紀に流行
    小玉中心。インドパシフィックビーズ
    原料が違う=製造地が違う  紺色ガラス=低アルミナ高カルシウム  淡青色=高アルミナ低カルシウム紺色ガラスは先に日本に入り1世紀に流行、淡青色ガラスは遅れて入ったがやはり1世紀に流行
    →2つの流通ルート・・・丹後=淡青色、中国南部?ベトナム?   九州=紺色、淡青色、インド?
  • ナトロンガラス・・・2世紀~5世紀
    日本では少ない。変わった形のものが多い(連珠、包み巻き?)
  • 植物灰ガラス・・・5世紀後半~
    引き伸ばし。直径6mm越える=インドパシフィックビーズではない=新羅・慶州に多い
    新沢千塚古墳のガラスはK、Mg多い。ササン朝が起源?
    片面が平たん、もう片面が湾曲するガラスが見られる=多くの色、引き伸ばし?百済で出土、日本では東北沿岸地域
  • 高アルミナ低石灰ソーダガラス ・・・1世紀~3世紀、4世紀~7世紀
    インドパシフィックビーズ、多彩な色

5世紀以前・・・中国産、東南アジアのガラス=海のシルクロード
5世紀以降・・・西アジア、地中海沿岸のガラス=海のシルクロード+内陸ルート
6世紀・・・百済から鉛ガラス
7世紀・・・国産ガラス。鉛が国産。飛鳥池遺跡出土のるつぼと類似したものが韓国出土=百済工人が伝えた?

 

宇津久志のガラス

①環状ガラス・・・ナトロンガラス=ローマ系
②金層ガラス・・・ナトロンガラス=ローマ系(黒海周辺)
③小玉・・・インドパシフィックビーズ系、鉛ガラス、鉛バリウムガラス、カリガラスなど多彩

以上のように世界各国から寄せ集められて日本に来た?

 

 

 

2012.11.18 22:55 | ブログ

コメント(3件)

  1. seta > 返信
    インドパシフィックビーズのガラスの材質は高アルミナソーダ石灰ガラスであると書いてあるとも受取れます。それで宜しいのでしょうか。また、このビーズの伝来は中国、朝鮮半島経由と書いてあります。小乗仏教に乗った海路は考えていらっしゃらないのでしょうか。金層トンボはジャワで沢山出土します。陸のシルクロード伝来説を重視しておいでなのでしょうか。
  2. seta > 返信
    幅広く書かれているので、勉強になります。ところで、インドパシフィックビーズのガラスの材質は高アルミナソーダ石灰ガラスであると書いてあるとも受取れます。それで宜しいのでしょうか。また、このビーズの伝来は中国、朝鮮半島経由と書いてあります。小乗仏教に乗った海路は考えていらっしゃらないのでしょうか。インドパシフィックビーズも金層トンボもジャワ島で沢山出土します。陸のシルクロード伝来説を重視しておいでなのでしょうか。
    • shimada > 返信
      setaさま

      2012年の田村氏による講演の自筆ノートを見ながら書かせていただいたブログです。
      インドパシフィックビーズは高アルミナソーダ石灰ガラスという成分的特徴があることで知られています。
      交易ルートには海上ルートも含まれますが、いわゆる「小乗仏教ルート」と一致するのかどうかは
      分かりません。

      公開されている報告 ↓

      https://kaken.nii.ac.jp/pdf/2012/seika/C-19_1/84604/22700851seika.pdf

      は端的にまとめられていて分かりやすいです。ご参考までに。

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