いつものように暗い地下墓で調査していた頃、I 教授が階段を走って降りてきた。
「島田君、これだろ?」
教授の手にはガラス。
「出たんですか!?」
破片が出ただけでもいい経験だと思っていたのに、ほぼ完全な形の状態のものが出た。
すぐに発見地点に駆け付けた。出土したガラスは首の長い瓶で、首の上部から口にかけて
失われていたが、断面がきらきらしていて古そうには見えなかったので、おそらく発掘中に
割れたのだと思い、近くを慎重に掘り進めると、残りの部分が姿を現した。
生まれて初めてのガラス発掘が叶った瞬間。日本の発掘ではほとんど経験できない
吹きガラスの発掘。高2の時に海外で発掘することを夢見て考古学の道に入り、しかも
自分がテーマとしているガラスを見つけることができたという幸運は忘れもしない。
レバノンで出土した遺物の中でも最も脆いガラスは、これ以上割れないように慎重に袋に入れられ、
宿舎へ持ち帰られた。
古代ガラスは一見きれいにみえても細かいヒビが入っていることが多い。保管は慎重に行うべきである。
幸い水浸しの状況で発見されたわけではないので、土中で湿っていた状態が急激に乾かないように
チャックつきの袋にいれて保管した。
それから土を少しずつ丁寧に除去する。土器のように水でじゃぶじゃぶ洗ってはいけない。 ガラスは水に弱い。
割れた部分は土にのっかることでその位置をとどめている場合もあるので、それを見極めながら土を落とし、
土をとるとガラスが分解してしまう場合は接着剤で接合してから土を除去する場合がある。
こうして土から解放されてようやく技法などを観察できる状態になる。
観察しやすいようにすることと、壊れないように保護ずる工夫が必要となるが、
博物館の所蔵庫でよくみかけるような、綿に包んで保管するのは得策ではない。
細かい繊維がヒビにひっかかってしまうからだ。
現地のスーパーでスポンジとタッパーを購入し、スポンジをガラスの形にくりぬいて
ガラスをそこに入れ、別のスポンジで蓋をしてタッパーに入れて保管した。現地で入手可能で
安上がり。
ガラスの保存について、なけなしの知識を絞りだして以上のような処理を施した。ちょっとは役にたったかな?
肉体労働9割、ガラス1割ってとこか(笑)
↓ 次回に登場する屈強なレバノン人の一人ヌール
これはある先生の真似をしているところ(笑)