Blog:羅馬は一日にして成らず -2nd edition-

”レバノン共和国ブルジュ・アル・シャマリT.01遺跡と壁画地下墓”に関する研究会2日目⑤2013.11.26

壁画地下墓の修復・保存・管理

保存科学的調査の醍醐味は発掘調査と合わせて、遺跡・遺構を保存・修復し、
これからの活用のために管理することも見据えた処理を施すことです。

特に、壁画地下墓のように、閉ざされた環境では比較的安定していても、
調査のために扉を開け、人が出入りすることでその環境ががらりと変わってしまい、
壁画にとってはあまり良くない状況も生じてしまいます。

環境調査によって現状を知り、それに適した処置を施していきます。

壁画の修復

剥離しそうな壁画を樹脂で固定。樹脂の使用を最低限に抑えるため、壁画の端だけにつけて
固定。

壁画の修復では冷や汗をかく状況があったとのこと。

2009年のこと。孔雀の絵に白い析出物が生じ、絵を傷めたのではないかという出来事がおこったそうです。
この析出物の正体は硫酸カルシウム。墓室内の温度・湿度の急激な変化によって生じたもので、
幸い、すぐに除去できたが、これが硬いものであれば、除去時に壁画も剥離する恐れがでてきます。

室内環境の安定化に努めてからは生じなくなった。

岩盤強化

地下墓では岩盤がせり出してきているような箇所もあり、早急な強化が必要。
堀込石棺墓の蓋石などをケイ酸塩樹脂OH100で強化を試みる。

石材の強化によく用いられるこの樹脂の効果を調べるため含浸実験が行われている。
風化により石材内部に空隙が多く生じている時は、樹脂の染み込み方が強いが、
表面のみしか染み込まなければ効果は薄い。

カビの調査

ブルジュ・アル・シャマリの調査は参加していないので分かりませんが、かつてラマリ地区の
地下墓で調査していた時は、地下墓の環境は高湿度で、カビ臭かったのを覚えています。
おそらく同じ状況だと思うのですが、ブルジュ・アル・シャマリではカビの調査が行われていました。

これは壁画に及ぼす影響もさることながら、作業環境としても考慮にいれなければならないことです。
なぜならカビには発がん性物質を生成するものや、アレルゲン、臓器毒性のカビもあるからです。
そして少しばかりそのようなカビも検出されたようで、これは私が調査したラマリ地区の地下墓でも
検出されたと知りました。

実は、ラマリ地区の調査において、土や石材を除去して行ったときに棺を納める棚が検出され始め、
そのあたりからカビ臭くなっていきました。本来ならマスクをすべきだったのですが、汗がたまることや
指示をしにくいことからマスクを着けずに作業していて、ある日、調査が終わって宿舎に戻ると気分が
悪くなり、そのまま寝込んでしまったことがあります。夜には嘔吐と下痢がひどく、人生で初めて39℃以上の
熱。翌日も下がらず、これまた初めての入院。

当時は疲労と思っていたのですが、後でカビのせいではないかなと思っていたので、このカビの調査には
興味がありました。あれはやっぱりカビのせいだったのではないか・・・・

この入院に関しては今やネタとして語られることがあるのですが、それはおいおいどこかで披露します。

ともあれ、カビの調査からは、健康を害しないような対策が必要だと分かったということです。

以上の処理はイスラエルによる空爆などで情勢が悪化し、調査が続行不能となったためまだ途中の段階です。
今後、継続して調査が行われることをレバノン考古学者も望んでいます。
その時は・・行きたいなあ!

 

2013.11.26 00:34 | ブログ

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