古代ガラスの調査のために旅行したレバノン、シリア、エジプト、チュニジア、トルコ・・・など、どの国にも
アンティークを扱うお店があり、古代ガラスはレギュラー商品でした。たいていはお土産物屋を兼ねているお店です。
真贋はともかく、店員は〇〇で出土したもので・・・・と勧めてきます。時に、旅行中に歩み寄ってきて箱やポケットから
出して勧めてくることもありました。
考古学者のはしくれとしては、古美術の海外持ち出しは堅く禁じられているという法律上の問題を抜きにしても、
倫理的な考えから購入したことはありませんが、研究資料としてものすごく欲しいと思ったことは多々あります。
いずれにせよ、考古学的研究を続けているとアンティークとはよく関わることになります。ガラスは特にたいていの
土産物屋で目にするため、 自ずと関心がいくのですが、そういえばアンティークっていったい何だろう?骨董屋って
どうやってコレクションを集め、売っているんだろう?そんなことが書かれている本です。とはいえ、やはり、ガラスのことが
書かれていると思ったのが一番の購入理由ですが。
著者のコレクションを集める各地での体験や、真贋の見極め方、アンティーク紹介など内容は楽しめました。とはいえ
コレクションの買い方が盗掘したもの?(正式な発掘ではなく、資産家が土地を買って掘らせるなど)であるかのような内容も
見られるため、微妙な気持ちにはなりましたが、そのあたりは考古学者とアンティークディーラーとしての著者との考え方が
違うでしょうから、ここで善し悪しを言うことはしません。アンティークディーラーとしての考え方を端的に示している内容として、
戦争中に軍が現地の文化財を持ち帰り、博物館コレクションとなっていることが多いですが、今、それら文化財の返還運動が盛んです。
大抵の国は拒否しています。ではどちらが正しいでしょう?著者は戦乱の続く各国に遺産が残ったままだったら、それらは現存したと
言えるのか?国外に持ち出したから今それを見ることができるのであり、重要なのは元の所有権ではなく、場所は移ろうと今こうして
残存できていることと述べています。この問題は賛否両論あると思います。まあ、とはいえ盗掘や非公式な発掘では、貴重な1次情報が
失われるため、研究に役立てることはできないんですがね。
本書では思った通り古代ガラスがよく登場しました。実態が知られていないジャワのトンボ玉。一般的には外から持ち込まれたと考えられ
ている玉ですが、著者は現地の窯址に連れて行ってもらっています。そんな興味深い内容もチラホラ。文化財を愛し、研究し、後世へ
伝える考古学者からすれば、ちょっと微妙なところもありますが、そんなアンティーク事情を知る上でもおススメではあります。