著者は旧約聖書学者。現在の世界の成り立ちを楔形文字文書や旧約聖書などからひも解く内容。とはいえ研究書というよりは、著者のこれまでの研究を盛り込みつつ、個人的に感じてきたことも盛り込んだエッセイのような内容です。たまに古文書とは関係のない詩句も出てきたりで個人的にはやや読みづらかったように思います。しかしイスラエルでの発掘経験や旧約聖書の研究歴の長い著者ならではの伝え方で、イスラエルに対するイメージが変わったものもありました。もしかしたら学問的なものというよりも、このようなことを伝えることが目的の本かもしれません。
主に旧約聖書を引用し、イスラエルの宗教史について語られることが多いですが、意外にもヤハウェの唯一絶対的な性格が確立したのは紀元前6世紀のバビロニア捕囚以降で、それまではヤハウェの他の様々な神もまつられていたといいます。イスラエルというと一神教で、他の神は認めないというイメージですが、この考えを確立させたのがバビロニアの王によるイスラエル人の拉致という人間の行い。歴史に「もし」はないですが、もしこれがなかったら、イスラエル人の宗教観は今とは違うものになっていたのかもしれません。イスラエル軍によるガザ空爆が毎日報道されていますが、これもなかったかも。そう思うと、人間ひとりひとりの行動が後世に影響を与えるということを自覚し、日々誰にも迷惑をかけないように心がけることが大切だと思わされてしまいます。本書の趣旨とはずれますが、イスラエルの子供とパレスティナの子供をいっしょに教育するといった、今までなら信じがたいことが学校の先生の努力で行われているということも本書で書かれており、驚きました。こうした子供たちが大人になった時、今の大人には解決できなかった問題が解決されることを願います。