記念すべき第1回となる大会が東京理科大にて開かれました。その記念すべき初回に無所属にも関わらず
発表させていただき、懐の深さに大変感謝いたします。日本ガラス工芸学会は考古学、美術系、理系、作家、
コレクター、愛好家などで構成されている異業種交流会みたいなものなので、 もとから様々な立場の意見を
受け入れる土台ができているところが学会としては意外と珍しいのかもしれません。
さて、この大会は口頭発表とポスター発表と作家の作品展示という盛沢山な内容で幕を開けました。
学生だった頃と比べると格段に研究が蓄積されていて多くのことを語れるようになっています。
そうした口頭発表やポスター発表について 、私なりに把握した内容をお伝えしたいと思います。
数日前に記事になったホットな内容です。
ガラス碗についてはコチラをクリック
ガラス皿についてはコチラをクリック
どちらも重要文化財に指定されているため、非破壊分析といえども直接分析することができず、収納箱
に残っていた破片や粉末が分析されました。分析機器はポータブル蛍光X線分析器やSpring8が使用されました。
蛍光X線分析というのは、資料の表面にX線を当てると、それを作っている元素によって違うX線を
発する(蛍光X線という)ので、何でできているか知ることができる分析器。海外で発掘したものは基本的に
持ち帰ることができないため、逆に分析器を持ち込んで現場で測定するということが行われています。そのため持ち運びが
できるように開発されたものがポータブル蛍光X線分析器。さらに粉末資料でも分析できるように開発されたものが
今回使われたようです。
Spring8とはこれまたX線を利用する分析ですが、微量重元素の測定が可能となります。原理などについては
コチラが詳しいです。
両者ともソーダ石灰ガラスであることが分かっていて、主成分は
●シリカ70%、ソーダ15%、カルシウム10%弱。この割合は現代ガラスもほとんど同じ。
このうちソーダは融点を下げるための原材料で主に2つに分けられます。
●ナトロン・・・エジプトの天然鉱物。主にローマ・ガラスや地中海域のガラスに使われた
●植物灰・・・植物なのでマグネシウムやカリウムなども多く含む。西アジア(ペルシア含む)、中央アジアのガラスの特徴
ではどちらを使っていたんだろう?という基準はマグネシウムやカリウムの重量%が1.5%未満ならナトロン、
1.5%以上なら植物灰と言われています。つまり融剤を調べることでローマ・ガラスかペルシアのガラスかが
ここで判断できます。以前に、外見は同じガラスでも、成分が違うため、違う場所で作られたことが分かった
ガラスがありました。これに関しては「新説 円形切子碗はローマ製か?という面白い記事」参照
ガラス碗は特徴的なカット装飾からササン朝ペルシアのガラスとされていたため、ササン・ガラスと分かっている
ガラスの組成と比較することが行われ、分析の結果、新沢千塚出土ガラス碗はササン朝の王宮で作られていた
ガラスと同様の成分を示し、高級品グループに属する事が分かりました。
形状からローマ・ガラスと考えられていましたが、組成もローマ・ガラスと一致。さらに2世紀まで消色剤として使われていた
アンチモンも検出。これにより、2世紀までにローマ帝国領で作られ、その後ササン朝ペルシアにて絵が描かれ、日本に伝来した
という見方ができるようになりました。
新沢千塚古墳から同時に出土した2点のガラスの出自がそれぞれ異なるにもかかわらず、5世紀に日本に伝来したことが
興味深い。
以上のように今、分析によって多くのことが判明していっています。ただし、化学分析のみから決定づけるのは少し危険で、
やはり考古学的な調査と合わせて判断されるべきであることは言うまでもありません。それに関しては「新沢千塚古墳群出土
紺色ガラス皿に関する記事」に紹介。