『ティリンス遺跡原画』
前回紹介したカタログ『ギリシア考古学の父 シュリーマン』の中で、ティリンス遺跡に関する部分と内容はほとんど同じです。
コラムやシュリーマンの発掘報告書作成において用いられた石版印刷術の解説など少しだけこの本のみに
見られる記述があります。また、カタログよりも大きな本のため、写真は見やすくなっています。
カタログの方は当然、全体的に網羅されていますが、本書は報告書原画に特化された内容ですので、
カタログをお持ちであれば、本書は買う必要はないでしょう。
本書で解説されている石版印刷に関する解説を読むと、非常に手のこんだ印刷術であることが分かります。
すべてが石版印刷術ではなく、銅板など別の方法も使われていたようですが、どの印刷術をとっても今日ほど印刷が
容易ではなかった時代、それでもシュリーマンは発掘の翌年には報告書を刊行するなど、現在では考えられないほど
迅速に行動しています。これは現代の考古学的調査が発掘と型式学のみならず、科学的な調査など学際的な研究が
行われ、そこに関わる研究者が多いためになかなか足並みがそろわないという要因もあると思いますが、もしシュリーマンが
現代に生きていたら、関連する研究者のお尻を叩いて、早く仕上げるようせかせたに違いない。彼はビジネスマンでもあったため、
目的を達成するための日程に厳しかっただろうと思う。いや、むしろ早く万人に自分の偉業を知って欲しかったに違いない。
本書に多く掲載されている“原画”は印刷する前の、大本になるものなので、世界に1枚しかない。その貴重な資料が
まとまって日本にあること自体驚くべきことだと思いますが、資料という価値だけでなく、写実性のある絵画のようでとても
美しいです。