『石の虚塔』
冒頭は旧石器ねつ造をした藤村氏へのインタビューから始まるので、その類の本かという印象でしたが、
主たる内容は、当時日本に存在しないとされていた旧石器時代を証明するために奮闘した考古学者たちが
どういう人たちであったのかという調査と取材がメイン。日本の歴史は皇国史観でもって教育されていたのが、
敗戦後はその思想が急に否定され、発掘で持って証明していかなければならなくなったため、考古学
という学問が急速に発展していった時代。 鳥居龍蔵、山内清男、杉原荘介、など名だたる日本考古学黎明期の
考古学者が登場します。その中でも特に岩宿遺跡の発見者・相澤忠洋と、彼を取り巻く研究者・芹沢氏、鎌田氏、
そしてねつ造事件を起こす藤村氏にスポットが当てられています。
相澤忠洋といえば教科書に出てくるくらい有名な人物ですが、彼がどういったいきさつで石器を発見するに
至ったのかは知りませんでした。本書によると、彼は行商をしながら何度も何度も遺跡に行っては露出している
石器などを集め、やがて存在しないとされていた関東ローム層から石器を発見しましたが、すぐに発表するのでは
なく、慎重に相談する相手を定め、杉原氏に相談したが、その成果を横取りされたと感じるようになり(取材では相澤氏
が芹沢氏にそそのかされたとしているが)、後に芹沢氏と行動を多く取るようになったといいます。
こうした考古学者同士の人間関係や、各々の出自背景なども取材されており、まるでサスペンスドラマのような
人間相関図が描けてしまうような内容で面白く読めました。
それにしても本書に登場する考古学者はほとんどが、商売をしながら独学により教授まで登りつめるか、専門家
になるという苦労人。相澤氏に至っては家庭を顧みず、考古学に没頭し、大学の講師になっても豊かな生活には
無関心でずっと貧しいままであったという。当時ほどではないにしても、自分も仕事しながらの研究のため共感を
覚えました。
藤村氏のねつ造に関して、学がなかったが大発見をして名声を得た相澤氏をまねたのだとする著者の推理は
興味深かったです。
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