2017年2月10日 天理参考館にて開催されたシンポジウムに行ってきました。
この研究発表の内容の前に予備知識を簡単に。
”正倉院白瑠璃碗の源流を探る”ということですが、この正倉院白瑠璃碗というのはどんなガラスかというと
無色透明ガラスに円形カットを全面に施したカットガラスのことで、国内では類例が正倉院以外にもあります。
正倉院のカットガラスは円形ですが、ほかに円形部分を浮き彫りにした「浮出円形」、二重の円形にカットした
「二重円形」があります。
これらカットの意匠がササン朝ペルシアの遺跡(特にカスピ海南岸)からたくさん見つかっていることから、 「ササン・ガラス」と呼ばれています。
ガラスの成分分析からも領土が隣接していたローマ帝国のガラス(ナトロン・ガラス)とは違う、植物灰を使ったガラス(植物灰ガラス)
ということが分かっています。
↑ 天理参考館所蔵の正倉院白瑠璃碗と同類のカットガラス。これは植物灰ガラス
(2012年『シルクロードを彩る人工の華 古代ガラス』展図録より )
↑ 同館所蔵の浮出切子碗(『同上』)
↑ 二重円形切子碗(深井晋司1973『ペルシアのガラス』より)
そういう経緯から、円形カット=ササン・ガラスという暗黙の了解みたいなものがありました。
ところが、
見かけはササン・ガラスなのに、ガラス成分はローマ・ガラス(ナトロン・ガラス) というものが近年、化学分析で分かり、
大きな議論になっています。つまり、見かけだけで判断するのは危険だ、ということ。
これに関しては以前にニュースになったのを取り上げたことがあります。
→ 「新説 円形切子碗はローマ製か?という面白い記事」
↑ この3点のカット・ガラスが問題のナトロン・ガラス。見かけはササン・ガラスですが、植物灰は使われておらず、
ナトロンを使ったガラスだと分かりました
このシンポジウムでは、このガラスの化学分析の経緯と、そこから生まれた問題をどう解釈していくか、について
発表されています。
講師は以下の3人
・ 巽 善信(天理参考館) 「天理参考館所蔵品から見た白瑠璃碗」
・四角隆二(岡山市立オリエント美術館) 「イラン北部に流入したササン・ガラス-伝イラン由来資料の検討-」
・阿部善也(東京理科大) 「化学分析が明らかにしたササン朝カットガラス」