Blog:羅馬は一日にして成らず -2nd edition-

シンポジウム「正倉院宝物白瑠璃碗の源流を探る -ササン朝ペルシア・ガラス研究の最先端-」④A2017.02.14

*私が発表内容を聞きながら書き取り、レジメも参考にしつつ、備忘録として手元にある資料も使ってまとめたもので、
どうしても聞き逃しや、レジメや口頭での発言に誤りがあったりすることもあるため、内容を100%網羅しているわけではないことご了承くださいませ。

阿部善也(東京理科大) 「化学分析が明らかにしたササン朝カットガラス」(前半)

古代ガラスの化学分析

ガラスの主成分と主な原料
・シリカ・・・石英礫、海岸の砂
・アルカリ分・・・植物灰、ナトロン
・石灰分・・・石灰石、貝殻

原料によって含まれる成分が異なるため、化学分析でどんな原料が使われたのかが分かる。
例えば、シリカ源に海岸の砂を使っていればケイ素の他に不純物が多く含まれる。この不純物の成分や割合も
各地で異なる。またアルカリ分に植物灰を使っていればKやMgが多く検出される。

ある工房跡で見つかったガラスの成分と、別の遺跡で見つかったガラスの成分が同じなら、そのガラスがその工房で
製造された可能性が高い。また、ある砂の成分とガラスから検出された成分が同じなら、そのガラスはその砂を使った可能性が高い、
ということになる。

このように、化学分析によって一次生産(ガラスそのものを作る段階)についての情報を得ることができる。ちなみに二次生産とは、
このガラスを熔かして形作る成形段階のこと。

ローマ・ガラスおよびササン・ガラスの化学組成

ローマ・ガラスもササン・ガラスも「アルカリ石灰ガラス」に分類されるガラスだが、アルカリ分に使われた原料の違いによって化学組成が
異なるため、区別できる。ローマ・ガラスはエジプトで産するソーダ(ナトロン)をアルカリ分として用いていたことから「ナトロン・ガラス」と
呼ばれる。これに対してササン・ガラスではアルカリ分として植物灰を用い「植物灰ガラス」と呼ばれる。植物に含まれるKやMgの濃度が
高いガラスとなる。数値的にはMgOとK2Oが1~1.5wt%より多いと「植物灰ガラス」に分類される。

ローマ・ガラス(ナトロン・ガラス)は3タイプあることが分かっている。これらはすべてアルカリ分としてエジプト産ナトロンを用いたという点で共通して
いるが、砂の採取地や製法が異なるため化学組成に違いが生じる。

①RBGタイプ・・・リサイクルで平均化。紀元前後~4世紀中頃
②Levantタイプ・・・現イスラエルのベールス川の砂をシリカ源に利用したガラス。東地中海沿岸に集中。4~7、8世紀
③HIMTタイプ・・・エジプトの砂を利用したとされる。4~7、8世紀 。北アフリカから北西ヨーロッパまで広範囲に分布

一方、ササン・ガラスも3タイプあることが分かっている。

①Sasanian 1a・・・不純物多い。3~4世紀
②Sasanian 1b・・・高純度。5~7世紀
③Sasanian 2・・・高Mg、極めて高純度 5~7世紀

以上をふまえて参考館、MIHO MUSEUM、岡山市立オリエント美術館、大原美術館が所蔵するローマ・ガラスとササン・ガラスを化学分析した。
円形カット14点、浮出カット4点、二重円形カット1点、カット装飾杯1点の計20点。17点は「植物灰ガラス」3点は「ナトロン・ガラス」に分類された。

2017.02.14 10:26 | ブログ, 研究会

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