『ローマ帝国の崩壊 文明が終わるということ』2017.04.18
『ローマ帝国の崩壊 文明が終わるということ』
- ブライアン・ウォード=パーキンズ 南雲泰輔 訳
- 2014
- 白水社
- 286ページ
- そもそもローマは滅んだのか
- 戦争の恐怖
- 敗北への道
- 新しい主人のものとで生きる
- 快適さの消滅
- なぜ快適さは消滅したか
- ひとつの文明の死とは
- この最善なる可能世界において、あらゆる物事はみな最善なのか
- 陶片から人びとへ
vitrum lab.評
前回紹介した『海のかなたのローマ帝国』のテーマは「ローマ化」でした。「ローマ人」に征服された「野蛮人」を支配下に置いたことで彼らを文明化した、という見方は欧米の植民地支配の時代に、その行動を正当化するために生み出された考え方であり、本当はローマ属州になった地域でも表面的にはローマ的な生活様式を取り入れつつも、従来の生活が続いていたという主張でした。ローマ研究ではこのようにローマ帝国の「滅亡」はなく、「変容」だとする主張が広がりを見せているようです。
一方、本書ではこの考え方に異議を申し立てる立場をとっています。ゲルマン民族の到来はローマ人にとってきわめて不快な出来事であり、時には残虐さを伴う劇的な変化であったという立場です。世界史では単にローマ帝国がゲルマン民族によって滅ぼされたと習うだけだったので、滅亡に関しては本書の内容が当然だと思っていましたが、なぜここまで滅亡について熱く取り上げるのかと言えば、上記のように、「変容説」が優勢になりつつあるからのようです。
そもそも、ローマ帝国は滅亡したのではなく変容したのだ、という説は『海のかなたのローマ帝国』を読んで初めて知り、本書を読んで「滅亡だ」「変容だ」という議論がなされていること自体驚きだったのですが、いずれの説をとるにせよ、文明が終わることの説明が研究者によってとらえ方が違うため、いかようにも説明ができるという印象を受けました。著者は特に経済的な視点でローマ帝国の複雑さが崩壊していく様子を述べています。ローマ帝国が拡大し、物質的な豊かさを極めた最盛期がどことなく現代と被るようにも思え、現代文明が滅ぶことはなかったものの、冒頭にはリーマンショックによる影響についての記述が少し出てくるあたり、ローマ帝国の滅亡と現代文明の今後の行く先を暗に意識しているところがあります。ローマ帝国の滅亡がローマ人にとって決していいものではなかったという主張から、おそらく、現代文明がもし滅ぶとすれば、同じような痛みを伴うはずだという警鐘を鳴らしているようにも思えます。
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2017.04.18 05:56 |
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