『猿神のロスト・シティ』2017.08.16
『猿神のロスト・シティ』
- ダグラス・プレストン著 鍛原多恵子 訳
- 2017
- NHK出版
- 400ページ
- 地獄の門
- アメリカ大陸の某所としか教えられない
- 男は禁断の地を見たから悪魔に殺された
- 人を寄せつけない山中の過酷なジャングル
- 猿神王国にもう一度戻って新世界の謎を解きたい
- 僕らは真っ暗な中へ舟を乗り入れた
- クジラを食べた魚
- ジャングルのレーザー
- これまでそんなことをした人は誰一人いませんでした
- あの川には二度と戻らない
- あそこは地図にも載っていません
- 偶然ではない―ここに大きな都市がある
- そいつは毒牙から一八〇センチメートル以上毒を飛ばす
- 花を摘んではいけませんよ!
- ここで目に入るすべてに人の手が入っている
- 脚が動かない。沈んでいくわ
- そこはとても古く魅力的な町だという
- ここはもう忘れ去られてはいない!
- 論争―彼らは私たちの父祖なのだ
- 光る頭蓋骨の洞窟―南北アメリカをつなぐ鍵
- コンドル―死と変化の象徴―が中央にあった
- 彼らがやって来て花がしおれた
- 白いhハンセン病―調査隊の四人が同じ病気にかかった
- 頭が燃えるようだ―国立衛生研究所にて
- あいつらは人の免疫系と仲良くしようとする
- ジャガーの都市
- 私たちは孤児になってしまった。おお、わが子らよ!
vitrum lab.評
大長編ドラえもん『のび太の大魔境』の冒頭でたしか地球上はくまなく調べ上げられていて、前人未到の場所なんてない、といった件のやりとりがあってそこから物語が始まったと記憶している。しかし前人未到の地は実在した。本書は実在する最後の秘境と呼ばれる地で考古学的調査を行ったチームに同行して取材したものである。これは小説ではなくノンフィクション。
著者は考古学者ではなくジャーナリスト。今回、ナショナルジオグラフィックの資金を得てこの取材を行う。
ホンジュラスの森深い地に昔から伝説の都市があるという噂が絶えなかった。著者は別の取材中にその幻の都市の情報を
手に入れ、なんとかこの調査に同行させてもらうことになった。調査は盗掘などを避けるため極秘に行われた。
幻の都市はリモートセンシング技術による調査によって、何やらこれまで調査されたことがないジャングルの奥地に人工物らしき
ものがあり、そこがかねてから噂のあった幻の都市の位置に近い、ということで噂でしかなかったものがにわかに現実味を帯びて
来た。そこで実際に調査することになるが、ホンジュラスのその地は世界一殺人事件が多いと言われ、さらに麻薬組織が牛耳っており、ジャングルも毒蛇や昆虫、病原菌によって人を寄せつけない、という危険極まりない調査になるため、サバイバル術に長けた
元軍人、そして資金が莫大に必要なためスポンサーとなった映画監督、考古学者、著者、そして調査をうまく進めるための交渉人(といっても裏の世界の人間)というチームで調査が行われたところが、面白みを増加させている。
ジャングルを歩いて現地入りするときの命がけの行進と、実際にその目で確かめた幻の都市の発見というセンセーショナルな
発表とは裏腹に、周囲の考古学者からは批判的な意見が相次ぎ、なかなかうまくコトが進まないという現実がまるで映画のようで
面白い。本書の後半は、ジャングルに入って調査したメンバーの多くが、調査後にジャングルならではの命に係わる病気を発症するという体験談が語られる。その体験を通じて著者なりにこの文明が崩壊した原因と、環境破壊が進む今の文明の将来がどうなるのかについての
解答が得られたようである。
以上のように本書はジャーナリストによる取材と体験によって構成されており、考古学的な調査や分析が詳細に書かれているような内容ではない(調査は現在も進行中)。だからといって大げさにそれこそ映画風に飾り立てた言葉で、幻の都市の発見を取材しているわけでもない。淡々と語られる取材内容は、どこか物足りなさを感じるが、この発見が非常に貴重なものであり、だからこそ慎重にすべきであるという心意気が感じられむしろ好意的な気持ちで読み終えた。この遺跡の調査はホンジュラスの国民のアイデンティティを確立する上でも重要な研究
と位置付けられているが、政権が不安定で交代が相次いだり、資金が政府になかったり、この調査に対する批判的な意見がいまだ多かったり、と今後の動きは不透明である。
vitrum labook
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2017.08.16 01:31 |
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考古学