①東アジアのガラス(鉛ガラス系)
鉛を含むため、鉛同位体比による産地推定*1が可能。
②インド~東南アジアのガラス
ほとんどが引き伸ばし法による典型的なインド・パシフィックビーズ
上記グループのうち、SIIおよびSVAには人工黄色顔料である錫酸鉛(PbSnO3)を着色剤として用いたガラス小玉の測定例がある。これらの鉛同位体比は近く、タイのソント鉱山の鉛と一致。
③地中海沿岸地域のガラス
アルカリ分としてナトロンを用いたナトロンガラスと植物灰を用いた植物灰ガラスがある。ナトロンガラスは地中海沿岸地域、植物灰ガラスは西アジア~中央アジアのガラスの特徴。
④西アジア~中央アジアのガラス
植物灰ガラス(Group SIII)が中心。エジプト(当時ローマ帝国領)で産出するナトロンの入手が困難だったため、別のアルカリ分として植物灰を用いたと考えられる。このグループはさらに製作技法や着色剤によって3つに細分される。
以上のほか重層玉やモザイク玉もSIIIに含まれている。特殊な事例として、1つの玉にSIとSIIIの特徴を有する玉も確認されている。二つのガラスをくっつけて伸ばした時の境目にあたる場所か?
*1 鉛同位体比産地推定法:鉛(Pb)には安定した同位体(性質は同じで質量が異なるもの)が204Pb、206Pb、207Pb、208Pbの4つある。これらは同じ鉛でもルーツが異なり、ウラン(U)やトリウム(Th)が自ら放射線を放出して別の原子に変わる「放射改変」を起こして鉛になる。放射改変はペースが一定のためその速度は計算することができ、もとの同位体の半分が別の原子になるのにかかる時間を「半減期」と呼ぶ。具体的には238Uが半減期45億年で206Pbに、235Uは半減期7.1億年で207Pbに、232Thは半減期140億年で208Pbになり、204Pbはもともと鉛で、これらの比率が各地の鉛鉱床によって異なることから、鉛鉱床のデータと鉛ガラスから検出された鉛の同比退避を比較して産地が推定できる。使用した鉛の産地が推定できるのであって、必ずしも鉛ガラスの産地と同じとは限らないが、古代のガラス製作地を推定する有効なデータにはなり得る。
*2 Levantine Iタイプ:ローマ・ガラスの一般的なガラス。ベールス川(現イスラエル)の砂が原料と考えられている。4~7世紀。