Books:本の紹介

『世界遺産パルミラ 破壊の現場から』2020.03.24

『世界遺産パルミラ 破壊の現場から』

 

  • 西藤清秀 安倍雅史 間舎裕生 編者
  • 2017
  • 雄山閣
  • 202ページ
  1. パルミラ遺跡破壊後の現状
  2. シリアの文化遺産と日本の調査団
  3. 紛争下のの文化遺産の現状と保護に向けた取り組み
  4. パネルディスカッション シリアの文化遺産の保護と復興に向けて

vitrum lab.評

シリアでの発掘は日本も深く関わっています。
特にパルミラ遺跡の発掘は私が高校生の時、新聞の記事で知り、
進学したい大学を選んだきっかけにもなりました。
進学後、パルミラ遺跡の発掘を指揮していたI教授のゼミを
採ることはなく保存科学を専攻して古代ガラスに熱中することになりましたが、
ガラスが見つかっているレバノンの発掘に来てみてはどうかと声をかけて
下さったのはI教授です。

吹きガラスの発祥の地とされるシリアは古代ガラス研究のあこがれの地でした。
レバノンの東側に位置するシリア。レバノンの発掘の合間に1週間ほど休みを
いただき、バスでシリアに行きました。いくつかの遺跡とガラス工房、そして博物館を
巡る機会を得ました。その時に訪れたパルミラは高校の時に記事で見た遺跡で、
それは感慨深いものがありました。この本の編者でもある橿原考古学研究所の西藤さんに
塔墓と地下墓を案内していただき、晩御飯もご一緒させていただきました。
解散して外に出てみると、砂漠に満天の星空。忘れることができません。

パルミラ博物館では古代ガラスが展示されており、本来は写真撮影は禁止されているようでしたが、
スタッフに聞いてみると日本にはパルミラ発掘でお世話になっているからと、撮影させてくれました。
そんなパルミラが2015年、ISに制圧されることになりました。主だった歴史的建造物が爆破した
ニュースは衝撃的でしたが、それ以外にも、この本で見た無数の穴があいた写真。盗掘孔です。
これにも衝撃を受けました。博物館の所蔵品も破壊されたり、売り出されたりしたようです。
政府軍が奪還してすぐ海外の研究者が文化財レスキューのために入国、その惨状を伝えています。
その人たちによる現状報告は生々しく、しかしすぐに修復を始めるのではなく、
まずは現状の把握と記録の保存を優先し、慌てずに修復をしていくべきだという冷静な判断が
印象的でした。

日本の研究者も独自に動き出しており、入国が許されない現状で今できることは何かを
考え行動に移しているようです。不安定な情勢で行われる文化財レスキュー。
研究者は何を考え、どうすべきなのか熱い議論が交わされています。

パルミラ

ベル神殿 2003年撮影

パルミラ2

地下墓 2003年撮影

三兄弟の墓 2003年撮影シリア・パルミラ遺跡

パルミラ遺跡破壊の記事

シリア・パルミラ遺跡

 

 

 

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2020.03.24 13:07 | 保存科学,

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