1974年出版で、水中での発掘調査技術がまだ始まって間もない時代の本です。著者は水中考古学を確立した人物として著名な研究者の一人で、以前紹介した『沈没船が教える世界史』の著者ランドール・ササキ氏は彼の最後の生徒です。実は沈没船からはガラス製品や原料としてのガラスがたくさん発見されることが多いため、無視できない分野です(こちら参考)。
内容としては水中での調査方法について例を挙げて書かれている点が多く、40年近く前の古い本ですので、現在と比べるとおそらくまだまだ問題が多いかもしれませんが、はじめはオークションに出すための宝探し的なところから、徐々に科学的な調査へと発展していく様子が分かります。このあたりは陸上での考古学と共通性があるかもしれません。最初は素潜りを何度も繰り返して調査していたというから驚きです。それから、潜水時間を短縮するための工夫が少しずつ行われ、水中調査に特化した潜水艦までが登場します。なぜここまでして水中遺跡を調査するのか?水中では空気が遮断されているため、陸上では残りにくい木や鉄などがよく残ることが多く、それゆえ、陸上での発掘よりも資金や時間はかかってしまいますが、水中遺跡を調査する価値は大いにあるといいます。しかし、それには命の危険が伴い、たとえば、深いところから一気に浅いところへ浮上する時におきる潜水病という症状が起きると命の危険があるため、注意が必要だということが何度も繰り返し述べられています。潜水病により死者や重傷者が過去にいたということです。
水中考古学で発掘技術のほかに必要なものは回収した遺物の保存修復技術で、長い間水につかっていたものを今度は乾燥による劣化から保護しなければなりません。保存修復に関して多くは語られていませんが、少しだけ触れられています。それに関連してガラスと関わる興味深い記述がありました。ガラスには水に溶けやすいアルカリ成分が含まれていますが、これが長い時代を経て徐々に溶出すると、中身がスカスカの状態になり、パイの生地のように層状に剥離しやすくなるのですが、その層は1年に1つずつ形成されるため、顕微鏡でこの層の数を数えるといつから水没したのかという年代が得られるというのです(本書p155)。しかし私の知る限り、ガラスの劣化のメカニズムは非常に複雑で成分や環境にも影響を受けるため一定のスピードで劣化していくものではなく、よって剥離層の数から年代を推測することはおそらくできないというのが現在の考え方だと思われます。
そんなこんなで今からすれば内容的にギャップがあるかもしれませんが、水中考古学が単なる宝探しから脱し、どのように発展してきたのか、数少ない水中考古学関連書物の入門書として、また、水中考古学の第一人者が書いた書物として貴重な本といえます。そういえば最近、新聞の記事で元寇のときに沈んだ船を調査するという内容のものをみました。どういった調査結果がでるのでしょうか・・・多分、分かるのはだいぶ後のことかもしれませんが。