以前、京都・長岡京市で金箔が挟まれたガラス玉が発見されたという記事を紹介しました。
今日はその調査についての講演があったので行ってきました。内容は一般の方向けに分かりやすく、
前半はガラスの基本的なこと、後半で問題の宇津久志1号墳出土ガラスについてでした。
講演者は奈良文化財研究所の田村朋美氏。
遺跡名は宇津久志1号墳という古墳で、5世紀前半に年代付けられています。ここから出土したガラス玉
に金箔が挟み込まれたガラスで作られたものがあり話題を呼びました。こういったガラスを「金層ガラス」
「ゴールドサンドイッチガラス」と呼びます。日本では他の地域でも出土例がありますが、数は多くないとのこと。
そしてそれらの中で宇津久志から見つかった金層ガラスは最古ということです。
興味深いのはこれ以外にもたくさんのガラスが見つかっていますが、様々な起源があるという点。
・金層ガラス・・・黒海周辺に出土例が多く、ここが製作地とされる
・環状ガラス・・ナトロンガラス=ローマ・ガラス系
・ガラス小玉・・・インドパシフィックビーズと言われる、中国、東南アジア系ガラス
製造地の違うこれらガラスが長い道のりを経て中国あるいは韓国を経由して日本にもたらされたと考えると、
古代の交易ルートはすでにグローバルと言えます。今後さらに当時の流通ルートを解明していきたいということです。
以下は、講演の詳細ノート。
石英・・・石英粉(石英を粉砕したもの)=不純物少ない
海岸・川の砂など(鉄など)=鉄(Fe)など不純物多い
融剤・・・石英だけを熔かすのは非常に高い温度が必要なので融剤を入れる
鉛(Pb)、カリ硝石(K)、ナトロン(Na)、植物灰(Na、K)など
( )で示したように、使われる原料によって化学組成が異なるので、これを検出できれば使われた原料が分かる。
↓
①鉛・・・方鉛鉱(バリウムを含むものもある)→鉛ガラス、鉛バリウムガラス
②ナトリウム ・・・植物灰(マグネシウム(Mg)、カリウム多い)=植物灰ガラス
ナトロンガラス(Mg、K少ない)=ナトロンガラス
③カリウム・・・カリ硝石
①地中海沿岸・・・B.C.8世紀~A.D.9世紀=ナトロンガラス、9世紀以降、植物灰ガラスに変わっていく
②西アジア・・・B.C. 3000年~ 植物灰ガラス(メソポタミア系、ササン朝系と呼ばれるガラス)
③中国・・・B.C.5世紀~A.D.3世紀 鉛バリウムガラス
④南アジア・東南アジア・・・高アルミナソーダ石灰ガラス
カリガラスの起源は不明。中国?東南アジア?
①技法・・・実態顕微鏡→気泡、筋の方向の観察など
X線透過撮影→同上
典型例はインドパシフィックビーズ:直径6mm以下・単色・引き延ばしという特徴
鉛ガラスに多い。インドパシフィックビーズに対してチャイニーズコイルビーズと呼ばれることも
②材質・・・CR法・・・特殊シートによる撮影。鉛ガラスかアルカリガラスかを判別できる。鉛ガラスはX線を透過しないのでシート上に白く写る
AR法・・・カリガラス中から放射性のK40が放出されることを利用しカリガラスと他のガラスを区別する方法。
以上2つの方法は大量のガラスを一気に選別できる方法
蛍光X線分析法・・・元素を検出できる非破壊分析法
5世紀以前・・・中国産、東南アジアのガラス=海のシルクロード
5世紀以降・・・西アジア、地中海沿岸のガラス=海のシルクロード+内陸ルート
6世紀・・・百済から鉛ガラス
7世紀・・・国産ガラス。鉛が国産。飛鳥池遺跡出土のるつぼと類似したものが韓国出土=百済工人が伝えた?
①環状ガラス・・・ナトロンガラス=ローマ系
②金層ガラス・・・ナトロンガラス=ローマ系(黒海周辺)
③小玉・・・インドパシフィックビーズ系、鉛ガラス、鉛バリウムガラス、カリガラスなど多彩
以上のように世界各国から寄せ集められて日本に来た?
2012年の田村氏による講演の自筆ノートを見ながら書かせていただいたブログです。
インドパシフィックビーズは高アルミナソーダ石灰ガラスという成分的特徴があることで知られています。
交易ルートには海上ルートも含まれますが、いわゆる「小乗仏教ルート」と一致するのかどうかは
分かりません。
公開されている報告 ↓
https://kaken.nii.ac.jp/pdf/2012/seika/C-19_1/84604/22700851seika.pdf
は端的にまとめられていて分かりやすいです。ご参考までに。