レバノンでの発掘に参加していた時に1週間ほど時間をいただき、
シリアを旅行しました。これが海外におけるガラス工房の調査の
始まりになりました。日本では見られない、古代の吹きガラスに
近いと思われる吹き方・・・ただただ感動。ガラス工房だけでなく
いろんな遺跡も巡り、最高の1週間でした。
シリアのガラス工房で訪れたのは首都ダマスカスにある工房2つ。
1つはハンドクラフトセンター内の工房で縦長の窯が特徴。
もう1つは旧市街にあるガラス工房。
縦長の窯が特徴。内部はルツボではなくタンク式。道具は形状は
異なるにしてもジャックやピンサーがあり、使い方は日本と変わら
ない。ベンチはなく、作業中、竿は職人の腿の上で転がされ、ガラ
スが成形される。この方法は日本ではみることができなかった方
法で興味深い。なぜなら、現在普通に使われているベンチが古代
にはなかったため、どのようにして竿を水平に転がしながら作業し
たのか分からなかったからである。
徐冷は窯の左に作られた3段式の徐冷炉(棚)が使われる。できた
てのガラスはまず最上段の棚にあるカゴに入れられ、順次、職人が
下へカゴを移していく。最下段に置かれたガラスは徐冷が終わって
いる。徐冷炉は窯の排熱を利用しているため、最上段が最も温度が
高く、下に行くにつれて低くなっているという仕組み。
職人は一人で全ての工程をこなす。左でペダルを踏むと巻き取り口
の蓋が上に上がり、竿でガラスを巻き取ることができるようになる。
ガラスを竿に巻取ると、巻き取り口の前に設置されたマーバーの上
で何度もガラスを転がし、表面を冷ます。それからブロー。この時も
マーバーで転がしている。
ジャックで首を括る時は、腿の上に火傷しないように置いたピンサーの
上で作業する。型の中に吹きこみ、コップのサイズを出した後、巻き取り
口直前の砂利の上にガラスを落とし、竿でコップの底を手前に向ける。
使い終わったばかりの吹き竿は巻き取り口のすぐ横にある小さな穴(パ
イプウォーマーの役割)に突っ込まれ、前の作業ですでに突っ込まれて
いた吹き竿を取り出し、溶けた先端のガラスをマーバーで整えて底に付
ける。すなわち、吹き竿が今度はポンテ竿として使われる。
まだ小さい穴のコップをよく加熱し、腿の上で口広げされ、見本と同じコッ
プになればそれで完成となった。型吹きする時以外はずっと座ったまま
の作業であった。
直方体の窯で、内部はタンク式。二人の職人はこのタンクを共同
で使う。特徴はほぼハンドクラフトセンターの工房と同じだが、徐
冷炉は窯の上方の中をレールが通っており、タンクの上あたりが
スタートで、徐々に奥へ奥へとレール上のカゴが移動させられて
最後には反対側の扉からカゴが取り出される。
マーバーは巻き取り口の前に1つと、窯の壁に埋め込まれたもの
がある。
職人は二人いるが、それぞれ別々に作業する。一人だけアシスタ
ントがいるも、彼は完成したガラスを受け取り、徐冷炉にいれるの
が仕事である。
作業内容はほとんどハンドクラフトセンターと同じであったが、底を
平らにする時、壁に埋め込まれたマーバーを利用していた。こういう
マーバーも日本では見られなかったもので、古代ではずっと座った
まま作業をしていた可能性が高いので、底部を平らにする時、この
ようなマーバーがあればやりやすいと思っていたが、実際にこれを
見て驚いたのを覚えている。