『黄金の都シカンを掘る』
・・・墓の主は足が上で頭が下というなんとも不思議な形に埋められていた。なぜ、墓の主は逆さまに埋められたのか。そして、なぜ仮面をつけた墓の主の顔は不自然にねじられて西を向いていたのか。一メートルもある金属製の手袋は、シカンの神か指導者の図像が描かれた黄金のコップを握りしめ、それを西に向けて捧げていた。いったいなぜ西なのか。西の方角はこの墓にとってどんな意味があるのだろうか。そして、ペルーではほとんど採ることのできない、赤道地帯を中心に棲む大型の貝の貝殻が、合計三〇〇個あまりも埋められていた。なぜこのような大量の貝が墓のなかにあったのか。そして、この貝殻はどこから持って来られたのか。
僕たちの国際的・学際的発掘チームがいかにしてこのような数々の謎を解いたか、そして考古学がいかに面白いものであるかを、この本を通して読者のみなさんと分かち合うことができれば幸いである。・・・
高2だったか高3だったか、とあるTVでこの本の題材となっている南米の発掘のドキュメントをしているのを何気なしに見ました。親父が見ていたニュースの企画の1つでした。これがものすごく面白く、進路は考古学に決めた瞬間です。その後、それまで行ったことのなかった博物館へこの展示を見に行き、高校生のおこづかいでは買えなかったカタログは大学になってから電話で取り寄せたほどです。
この本は、そのTVに取り上げられていた島田泉教授が書いた本で、学術的な内容というよりも、島田教授がどのようにしてこの発掘をすることになったのか、また、発掘時のエピソードなどを交えた教授自身の物語です。私は結局、南米の考古学をこれっぽっちも研究することなく、ガラスの実験考古学的研究にのめり込むことになりましたが、驚いたことに教授は学生の頃、アメリカの実験考古学主唱者の一人、ロバート・アッシャーが担任教授で、石斧で実際に木を切って作業効率を調べるという実験考古学的研究で論文を書いています。ロバート・アッシャーはやはり『実験考古学』の中で参考文献に取り上げられていました。
島田教授曰く「研究者は、自分たちが羅列する専門用語が、一般の人たちに漠然としたイメージしか与えないことに気づいていない」という思いから、本の内容は専門家でなくとも分かりやすいように簡単な言葉で、親近感が湧くように書かれています。発掘の学術的研究は展示のカタログにまかせるとして(今もあるかどうかはわかりませんが)、普段は知り得ない一考古学者の自伝を特に、考古学を勉強したいと思っている学生さんにおススメします。
ここで紹介した本は下から選んでご購入いただけます。